コロナ収束で出社を強要する企業が陥る落とし穴 「働き方のトレードオフ」の解決が緊急課題

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職業生活と家庭生活の緊張関係自体は何十年も前から存在したが、状況を改めるための対策はあまり講じられてこなかった。リーダーたちが職業生活と家庭生活のトレードオフに気づいていなかったからでもあるが、幸か不幸か、ロックダウンの期間に、リーダー自身もそうした問題を直接経験することになった。

もちろん、庭つきの広い邸宅に住む企業幹部と、狭いアパートで暮らすシングルマザー、そしてその企業幹部の下で働く一般社員たちの経験は、同じではない。

コロナ前、リーダーたちはしばしば、日々の生活で多くの社員と同様の苦労を味わわずにすんでいた。子どもの世話をベビーシッターに任せたり、庭師やクリーニング業者に家事を委ねたりできたため、社員たちがどんなことで困っているかを知らないケースが多かった。

働く人の「時間と場所の柔軟性」を高める

パンデミックにより、少なくとも2020年と2021年の多くの期間、リーダーたちは、哲学者のジョン・ロールズが言う「無知のベール」の下でものを考えることができた。

ロックダウンや在宅勤務の義務化などにより、ほかの人たちと同じようなストレスや重圧を身に染みて経験したことで、多くの企業リーダーは、社員の境遇への理解と共感を初めていだくようになったのである。

一部の企業は以前から時間と場所の柔軟性を高めようとしていたが、コロナ禍をきっかけに、すべての企業の幹部チームが新しい現実を突きつけられた。

勤務場所の概念を広げて、どこでも(ほとんどの場合は自宅でも)働けるようにできないか。勤務時間の概念を広げて、午前9~午後5時の時間帯以外の勤務時間を選択できないか。人と人の物理的な接触が減る中で、バーチャルなつながりを可能にするために、どのようにテクノロジーを活用すればいいのか。

ここで見過ごせないのは、働き方の変革がリーダーにとって身近な問題になったことで、リーダーがさまざまな働き方の間のトレードオフの関係、つまり一方を立てれば他方が立たない関係を明確に認識できるようになったことだ。

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