おおた:そうですよね。親自身が自分の中に住んでいる野獣というか、怪物みたいなものの存在に気づいて、それをぱっと引っ込めることができれば、いちばんの収穫なのかもしれないですね。「あ、自分の中にこんな危険な自分がいるんだ」っていうことを自覚する。自分も怪物になってしまう瞬間がきっと来るという前提で、いかに早くそれを引っ込めるかとか、手なづけられるかっていう問題なのかなって。
『勇者たちの中学受験』の3つのエピソードでは、ほとんどの親が一度は豹変します。でも、それを引っ込めるタイミングの違いが、そのまま中学受験に対する家族の満足度に直結しているんですよ。
周りがどういうふうにその子を認めてあげるか
朝比奈:中学受験をなくしたほうがいいって言われてしまうと、それはちょっと違うかなと思いますね。というのも、やっぱり塾は楽しいっていう子は意外と多い。魅力的な先生がいて、授業も面白くて、ここが自分の居場所だって思う子もいっぱいいるし、紆余曲折あって第1志望の学校に行かなかったとしても、進学先ですごく満足してる子もたくさんいるし、その子たちはみんな中学受験して良かったって思ってるので。
一生懸命努力できたら、仮に不合格という結果が出ても、自分でちゃんと受け入れられると思うんですよ。それには周りがどういうふうにその子を認めてあげるかっていうことがいちばん大事だと思います。ポイントはきっと、サポートする周りの大人が、大人であり続けることですよね。
『翼の翼』で言えば翼の父親の真治が、『二月の勝者』で言えば島津くんのお父さんとか理衣沙ちゃんのお母さんとかもそうだと思うんですけど、なんか子どもっぽい行動を取るじゃないですか。『勇者たちの中学受験』ならハヤトくんのお父さんも、息子に対して感情的になってしまいます。 おそらく多くの親が、他人のお子さんにはそんなこと絶対言わないし、しないでしょっていうことを、自分の子どもには平気でしてしまう。
そこをなんとか踏ん張って大人として対応できれば……。それがすごく難しいんだけれども、これから中学受験に向かわれる子たちの親御さんには、すごく難しいことをやっていくんだっていう自覚を持って臨んでほしいと思います。
おおた:やっぱり終わってからわかることって多いよねって話が先ほどあったと思うんですけど、それでいいんだとも思います。すべての結果が出揃ってしばらくたって、自分たちが歩んできた3年間ぐらいの道のりの意味付けみたいなことをしていくわけですよね。実はそこから始まるんだと思うんですよね、「中学受験のエピローグ」が。
この旅路には、こういう意味合いがあったんだって後から意味付けをしていくことによって、自分たちの経験を教訓に変えていくことができるし、その中で子どもが受けてしまった傷に気づいたり、あるいは渦中にいる時は気づかなかった成長に気づけたりします。終わってからたっぷりと時間をかけて、エピローグをハッピーエンドに仕上げてほしい。今回の取材でも、インタビューを進めて行く中で、親御さんの視点が変わっていく瞬間というのは何度かあったんですよ。
朝比奈:話を聞いてもらうことで、客観的になれたんですね。