日本は「成熟した債権国」の終わりに来ているのか 季節調整値で2カ月連続の「経常収支赤字」を記録

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だが一方、各論に目をやれば、日本において「円安で得する経済主体」と「円安で損する経済主体」に分断があるという問題も無視できない。前者の代表格は輸出大企業、後者の代表格は一般家計だ。前者が円安で収益を積み上げた結果、後者の賃金が相応に増えただろうか。そうではなかったことは、アベノミクス後の約10年間を振り返ればよくわかる。

その背景にある問題は、おそらく1つではないが、例えば硬直性が指摘される日本型雇用などの論点も絡んでいそうであり、そうだとすると経済政策の範疇を超えて、非常に大きな話になる。いずれにせよ、「円安で得する経済主体」から「円安で損する経済主体」へのスピルオーバーが十分ではないという前提に立てば、円安は格差拡大を助長する相場現象にとどまる。

日本が今後は「債権取り崩し国」として慢性的な円安に悩むのだとすれば、格差拡大が社会問題としてより大きなものとなっていくのだろうか。もちろん、資源価格次第では「成熟した債権国」としての地位が当分続き、円安相場が収束するという可能性もないわけではない。いずれにせよ、歴史的な分岐点に立つつもりで円相場や日本経済を分析する必要性は増しているように感じる。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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