現在、ザ・ミューズは1億人近いユーザーにサービスを提供している。資本金は2800万ドルを超え、スタッフは総勢200名に増えた。
キャスリンはいくつもの「ノー」にもかかわらず成し遂げたのだ、とついつい考えたくなるだろう。しかし実は、あの148回の「ノー」の1つひとつが、最終的には彼女のビジネスを強大にしてくれたのだ。
彼女のイメージを鮮明にした「ノー」もあれば、競合他社の思惑を把握するうえで役立った「ノー」もある。多くの「ノー」のおかげで、キャスリンは、この事業が失敗する危険性について早くから警戒感を持って臨むことができた。
「ノー」で確信したビジネスチャンス
「わたしは、ダイエット炭酸飲料に依存していましたね」とカーラ・ゴールディン――のちに健康飲料ヒントウォーター(Hint Water)を開発――は言う。
「ダイエット炭酸飲料を飲んでいたわりに、体重は減らないのが悩みで、毎日30~40分はジムに通っていましたが、ひどいニキビもできて、体力もゼロでした」
やがてダイエット炭酸飲料をいっさい飲むのをやめて、普通の水を飲み始めると、カーラの抱えていた問題は、少しずつ改善されていった。その後、1年近く普通の水を飲み続けるうちに、体調はかつてないほどよくなったが、その一方で水の味に飽きてしまった――というより、味のなさに飽きてしまった。
そこで始めたのが、グラス1杯の水に新鮮なフルーツを放り込むことだ。しばらくして、彼女はふと思う――きっとこんなのは商品化されてるわよね? ところが、探し回ったが、結局、どこにも見つけられなかった。
そこで彼女は決心。「わたしが製品を開発してみよう」。
カーラは、砂糖も保存料も使わずにフルーツ味の飲料をつくることに着手。その一方で、ビジネスパートナー候補や投資家たちと面会を始めた。飲料業界の大物の1人が、カーラに問答無用の「ノー」を言い渡したが、同時に最高のアドバイスをくれた。
カーラが商品のプレゼンを終えると、彼は「あのね、アメリカ人はなんと言っても甘いのが大好きなんだよ」と言った。そのなにげない言葉は、カーラに気づきをもたらした。
そうか、大手炭酸飲料メーカーの重役は、「アメリカ人は甘味のない飲料には興味がない」という確固たる前提――その是非はともかく――で会社経営をしているのだ、と。その瞬間、彼女の「甘くない」飲料ビジネスにとって、彼らが大きな脅威にならないことが保証されたのだ。
その後、この重役は年間1億ドルもの大金を、みすみす逃したことが証明された。1億ドルというのは、今やどこの食料品店の陳列棚にも並ぶヒントウォーターが、絶対的甘党と断じられていたアメリカ人から得ている年間収益額である。
「大手企業が『君は間違っている』だの『よくあるアイデアだ』だのと難癖をつけるからと言って、必ずしも、それが最悪のアイデアとはかぎらない。実際には、そういう企業から大事なヒントを得られて、おかげで自分たちが今までとは違う何かをやろうとしているということに確信が持てるわけ。大切なのは、それをヒントと受け取って、しっかり活かして実際に走り出すことですよね」
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