「2晩ほどホワイトボードに向かい、アイデアについてあれこれ話し合って、ついに確信したんです。信頼され愛される個人向けキャリアサイト、専門職に就いて間もない人たちに必要なアドバイスに重点を置いたサイト、そういうものを立ち上げるチャンスはあると」
キャスリンとアレックスは、ユーザーたちの人生にザ・ミューズが果たす役割について明確なビジョンを持つことができた。
だが、2人に見えていたものが誰の目にも見えたわけではない。
「投資家の人たちにプレゼンを始めたとき、2つの大きな問題にぶつかりました。1つは、ほとんどの投資家が私たちの立ち上げるサイトの典型的なユーザーモデルと合致しないことでした。彼らは昔ながらのベンチャーキャピタリストですから、もともとキャリアの面で成功している人たちです。一流大学を卒業して、銀行か未公開株式投資会社で経験を積んだ人がほとんど。多くが、快適で、豊かな人脈を通じて就職します。というわけで、このサイトのコンセプトを売り込もうとした相手からは、私たちはひたすら困り顔で見つめ返されました」
2つめの問題は「現状に満足しきって、従来のやり方にとらわれていること」とキャスリン。
「たぶん、20年間一度もご自身で職探しをしたことはないと思われるベンチャーキャピタリストが、私のプレゼンを聞いたその場で、モンスター・ドットコム(老舗の大手転職サイト)を開いて言ったんです。『どうもわからんな。僕にはこれで十分だと思うがね』と。彼らはそのサイトを実際に使ったことはないわけで、たとえばキャリアアップの初期から中期段階にいる31歳の女性に必要な情報を、そのサイトが十分に提供できているかどうか、わかるはずがないのに」
148回の「ノー」がビジネスを強大に
来る日も来る日も「ノー」と言われ続けたキャスリンの記憶にある「ノー」の一部を紹介しよう。
「僕らにはちょっと早すぎるかな。また何かあったらご連絡ください」
「とんだ無駄足だったね」
「あまりに高額すぎませんか」
「このプラットフォームじゃ事業拡大は難しいですね」
「ユーザーたちが30歳になって子育てを始めたら、1人残らずサイトから離れていくという心配はないんですか?」
「ニューヨークやサンフランシスコの女性がこのサイトを大いに気に入るのはわかるよ。だけど、それ以外でキャリア志向の女性を見つけるのは難しいんじゃないか」
シリコンバレーやニューヨークで成功した投資家たちから次々に「ノー」を浴びせられたら、「否定論者のほうが正しいかもしれない」と自問せずにいられなくなるだろう。
しかし、キャスリンは理屈ではなく、本能的な自分の直感を信じた。彼女は、この「ノー」を繰り出す面々に対して、心のなかで「そもそもあなたはキャリア女性について知っているの?」と問いかけ続けた。
10代からデジタル環境になじんだミレニアル世代の女性についてなら(大半が白人の中年男性である)投資家より、キャスリンのほうがはるかに多くのことを知っていた。