中国の台湾政策に行き詰まりが見えて仕方ない訳 ペロシ訪台後の行動に米国ひるまず、国内も失望

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中国政府からすれば、今回の軍事演習は、アメリカなどに対して自国の意思を示し、圧力を加える一方で、それがコントロール不能になることは避けねばならなかった。その意味で国内のこうした反応は心地よいものではなかったはずだ。中国政府は「理性的愛国」の必要性を強調し、世論の誘導を重視せざるをえなかった。

中国政治にとっての意味

中台間のパワーバランスは、中国が圧倒的に有利となっているものの、中国の台湾政策はその目標達成に近づいているとは言いがたい。

台湾政策の行き詰まりは、国内政治において扱いの難しい問題になりうる。1つは台湾政策の失敗がエリート政治に及ぼす影響である。中国共産党の歴史的経験から見て、対外政策が習近平の最高指導者としての地位に直接影響することはないだろう。

習近平への権力集中が進んだ現在では、台湾政策の失敗の責任を習近平が直接問われることはない。しかし台湾問題における失敗は、国内政治の不協和につながりうる。たとえば、台湾政策の行き詰まりを打破するために、政策変更を求める声は、習近平への挑戦ととらえられかねない。

もう1つは強気すぎる国内世論である。中国において、国内世論は対外政策の決定を直接左右することはないかもしれない。しかし強気すぎる国内世論は、危機時の行動を左右しうる。例えば、対外政策において強硬姿勢を見せ、国内宣伝を繰り広げる中で、妥協することは難しくなるだろう。

中国にとって困難があるということは、台湾海峡において何も行動をとらないということではない。今後の展開としては、従来の台湾政策が行き詰まり、またアメリカなどの対台湾関与が深まる中で、中国はさらなる意思を示す必要があると認識している可能性がある。1995年から1996年の第3次台湾海峡危機のように、年をまたいで再び大規模な軍事演習が行われる可能性はあるだろう。

また中国の台湾に対する武力侵攻を困難にさせるうえで核心となるのは、アメリカのコミットメントが継続的かつ安定的に強化されることである。アメリカ軍が積極的に台湾海峡の状況に関与し、日本がそれを確実に支えることは、中国にとって気にすべき要素を増やし、その計算を複雑なものにさせることができる。現在の台湾政策のコストを中国に見せ続けることが重要となろう。

(山口信治/防衛研究所地域研究部中国研究室 主任研究官)

*本稿は筆者の個人的観点に基づいており、所属組織の見解を代表するものではありません

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