コロナで変わる企業、変わらない企業、紙一重の差 まだ同じやり方を続けていると直面する危機

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企業は、社員の安全を守り、事業活動を継続するために、速いペースでイノベーションを成し遂げなくてはならなくなった。こうして、ほぼすべての国の企業が仕事の時間と場所に関する実験に乗り出した。世界規模で壮大な「解凍」が起きたのである。

企業が社員の「心の健康」をケアし始めた

平常時には、それぞれの企業がそれぞれのタイミングで、自社に固有の環境の下で「解凍」を経験する。このパンデミックでは、世界中の企業が同時に、「解凍」のプロセスを突き動かす環境を経験した。それは、ひとつの「集団的な経験」だった。

社員が働く時間と場所にほとんど関心を払わなかったリーダーたちも、オフィスの役割がどのように変わり、社員の精神的な健康にどのような影響が及ぶかについて、予測を語るようになった。心理学者やテクノロジー専門家、ジャーナリストなど、あらゆる専門家や評論家もこぞってこの点に関する自説を述べ始めた。集団レベルの「解凍」のあとに、「集団的な想像」の段階が始まったのだ。

ソーシャルメディアは、自宅で働くとはどのようなことかと想像を巡らせ、オフィスのあり方を新たに構想する人たちの言葉であふれ返った。一方、リーダーたちは、社員集会など、それまでのコミュニケーションの手段を利用できなくなり、リモート・コミュニケーションのプラットフォームやバーチャル会議を使って、しばしば自宅から社員にメッセージを送るようになった。

こうした集団的な経験は、変革に向けた「集団的な旅」に道を開いた。この時期、私が頻繁に連絡を取った企業幹部のひとりがリアン・カッツだ。当時は、60以上の市場でビジネスを展開する金融大手HSBCのグループ最高マーケティング責任者を務めていた人物である。カッツは2021年6月に、私にこう語った。

「私たちがまだ解凍の段階にあることは間違いありません。一部の部署は、仕事のあり方を設計し直すためのおおまかな原則をすでに決めていますが、まだ検討中の部署もあります。今の状態は『湿った粘土』に似ています。まだいくつもの選択肢があり、粘土が固まるにはほど遠い状態なのです。想像力を失うくらいなら、湿った粘土の中に足を踏み入れて、足を汚したほうがいいと、私は思っています。これは、今までより高い水準を追求し、ハードルを上げる好機なのです」

今、私たちは、仕事のあり方を設計し直す絶好のチャンスを手にしている。

リンダ・グラットン ロンドン・ビジネス・スクール経営学教授

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Lynda Gratton

ロンドン・ビジネス・スクール経営学教授。世界をリードする「働き方の未来」の専門家。全世界で最も権威ある経営思想家ランキングである「Thinkers50」では、トップ15にランクインしており、2018年には安倍晋三元首相から「人生100年時代構想会議」のメンバーに任命された。著作である『ワーク・シフト』『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』シリーズ(アンドリュー・スコットとの共著)は日本で大ベストセラーに。長寿社会におけるキャリア構築の考え方――「人生100年時代」というキーワードをつくり出した中心人物である。

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