戦況悪化でむなしいプーチンの「領土拡大」宣言 モスクワではポスト・プーチン体制に向けた臆測も

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戦局の好転も、交渉による解決もその見通しが立たない中、ガリャモフ氏はこう指摘する。「モスクワでプーチン氏の後継者の話が浮上する可能性がある。クーデターか、クレムリン内のエリートによる政権交代か。プーチン氏が事態打開のため自ら後継者を指名して退陣する可能性もある」と。

プーチン退陣をにらんだ発言は反政権派からも出始めている。著名な社会運動家であるマルク・フェイギン氏は、プーチン氏に代わって欧米的な政治路線を掲げる指導者が登場することはありえないと指摘する。欧米的政治スタイルに対するロシア国民全体の忌避意識が強いためだ。フェイギン氏は社会の変化には「時間がかかる」と認めている。

このため、プーチン政権上層部内で、より米欧にも受け入れられる人物が後継者として浮上する可能性があると述べた。そのうえで後継者の有力候補としては、フェイギン氏は、今まで戦争について公式の発言をしていないミシュスチン首相を挙げた。

プーチンは核兵器を使用するか

しかし、こうした周囲の思惑をよそにプーチン氏は強気の姿勢を崩していない。先述した併合演説の中でも核攻撃の可能性を示唆する場面があった。原爆投下によってアメリカが核攻撃の「前例」を作ったと述べた。つまり、ロシアが今後侵攻で核攻撃しても、前例を作ったアメリカが悪いと強弁する布石とも読める発言だ。

プーチン氏が今回、戦術核などでの核攻撃をしなかった場合、ロシアが外交上の最大の切り札にしている「核カード」の心理的抑止力は今後、大きく減退するだろう。一方で、核攻撃しても、その軍事的効果には疑問も残る。

敗色濃かった日本を最終的に降伏に追い込むためにアメリカが原爆を投下したのと異なって、今回ロシアが核兵器で攻撃してもウクライナが降伏するという保証はないからだ。逆にアメリカから強烈な報復攻撃を受けるのは必至だ。21世紀に核を使った指導者として歴史に汚名を残すことにもなる。

いずれにしてもウクライナ戦争は戦局的にも今後年末に向け、大きなヤマ場に差し掛かる。国際社会が一致してロシアに対し、侵攻停止に向け強い圧力を掛けるべき時期だ。この中でG7(主要7カ国)の中で唯一、ポーランドに大使館を避難させたまま、キーウに戻していなかった日本は近く戻す予定だ。2023年のG7議長国として日本は、平和回復や復興に向けて国際社会をリードしていくべきだ。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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