2020年、山上容疑者の採用面接を行った担当者は「毛並みが違う」と感じたという。
「フォークリフトの運転手は体育会系が多い。その点、彼の立ち居振る舞いはホワイトカラーそのものでした。能力も高かった。フォークリフト操縦は衝突や破損の事故が頻繁に起きるのですが、彼については事故報告が1件もなかった。オフィス内で働く幹部たちの印象も非常によかった」(社長)
そんな山上容疑者が悪態をついたのが、オフィスの外で働くブルーカラーの人々だった。
「彼は自分なりの知識や理論に基づいて仕事を完璧にこなそうとするタイプ。だからなのか、ブルーカラーの運転手や工場作業員に『手順が違う』と意見されると、『おまえに言われたくないわ』と反発する。口論が起きるときは、いつもこのパターンでした。進学校を出ている彼の中には『自分はこんなところで働く人間ではない』といういら立ちが強くあったのでは」(同)
母親の高額献金で大学進学を断念
進学校として知られる奈良県立郡山高校を1998年に卒業した山上容疑者は、大学には進学していない。伯父によれば「家庭の経済状況から大学進学は断念せざるをえなかった」という。
2002年に海上自衛隊に入隊したが、2005年に自殺を図る。海自が事情を聴いたとき、本人の口から出てきたのが「統一教会に人生をめちゃくちゃにされた」という恨みの言葉だった。
1991年頃に入信した母親が統一教会に高額献金を繰り返し、山上家崩壊の要因を作ったことは、おおかた明らかになっている。
注目したいのは母親が高額献金をした時期だ。先祖の霊やたたりで不幸が起きていると脅し、高額のつぼや印鑑を売りつける霊感商法が本格化したのは80年。被害が続出し、1982年の衆議院法務委員会では、「悪運を払うなどと言ってつぼを売りつける怪しげな商法が横行している」と問題視されている。被害が後を絶たないことから、1987年に全国霊感商法対策弁護士連絡会が発足した。
1990年代、一般社会との摩擦を避けるため、教団の資金調達法は信者から献金を吸い上げる方法へと変化していく。山上容疑者の母親が、自死した夫の生命保険や実父名義の不動産、子どもたちが暮らす家までを献金の原資としてしまったのは、そうした時期だった。