ウクライナ戦巡るプーチン「意味深発言」の意図 中露首脳会談後の記者会見から読み解く

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ドネツク、ルガンスク、ヘルソン、サポリージャでは、9月23日から27日の期間にロシアへの併合の是非を問う住民投票が実施される見込みである。これが1つの転換点となる可能性がある。

住民投票でロシアへの編入が決まれば、ウクライナ側もますます反発するだろうし、ロシア側はさらに国民の支持を高めることになるだろう。ロシアとウクライナの停戦交渉までもっていくにはさらに時間がかかることは明白であり、ロシア側としては長期的な観測をもってウクライナ紛争を継続していく構えを示していることになる。

戦争はますます長期化する可能性

問題は、これらの地域の併合によって、これまでのように他国(ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国)の解放のために介入するということではなく、ロシアの領土のために防衛するという構図が生まれることである。このことにより、契約軍人のみならず、徴兵軍人も含む全軍事力の投入の大義名分が立つことになる。

9月21日には、早速プーチン大統領が予備役の徴集を命じる「部分動員について」という大統領令に署名している。また、兵器の増産についても軍事産業に向けて指示を出した。

さらに、プーチン大統領は、記者会見で、ウクライナ側がロシアの領土内の生活インフラにまで攻撃やテロを仕掛けていることについて、ここ当分は抑制された対応をとるが、こうした攻撃が続けば、対応はより深刻なものとなるだろうと警告を発した。

これは住民投票の結果、ウクライナ南東部がロシアに編入されることを見越しての発言でもある。ロシアは、全軍事力を投入しての大々的な反攻を期している可能性がある。

実際、プーチン大統領は、21日の国民向け演説において、核兵器を含むあらゆる手段を用いて祖国の領土一体性を守るとも宣言した。ウクライナの反転攻勢が、プーチン大統領に覚悟を迫る結果になったのである。

亀山 陽司 著述家、元外交官

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かめやま ようじ / Yoji Kameyama

1980年生まれ。2004年、東京大学教養学部基礎科学科卒業。2006年、東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了。外務省入省後ロシア課に勤務し、ユジノサハリンスク総領事館(2009~2011年)、在ロシア日本大使館(2011~2014年)、ロシア課(2014~2017年)など、約10年間ロシア外交に携わる。2020年に退職し、現在は森林業のかたわら執筆活動に従事する。北海道在住。近著に『地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理』(PHP新書)、『ロシアの眼から見た日本』(NHK出版新書)

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