会社の不正を内部通報した社員を襲った「想定外」 窓口だった弁護士が裁判で「会社側の代理人」に

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今年6月に改正法が施行された公益通報者保護法は役所への行政通報やマスコミなどへの外部通報ではなく、組織内への内部通報を促す目的で、各企業に内部通報体制の整備(窓口設置、調査、是正措置など)を義務づけた。内部通報に対応する業務従事者には情報の守秘義務を課し、違反した場合の刑事罰も導入した。

かつて消費者庁で公益通報保護法を担当していた淑徳大学コミュニティ政策学部の日野勝吾准教授は「今回のケースは内部通報制度全体の信頼感を失わせる由々しき問題。内部通報の促進を狙った改正法の趣旨を根本から損なわせる」と懸念する。

「せっかく法改正で内部通報の受け付け体制を整備して、組織の自浄作用を高める仕組みづくりをしたのに台無しになる恐れもあります。内部通報に関与した弁護士が、裁判となったら会社側に付いて反証したり立証したりしていては、さすがにそれはフェアではない。

これが通用するのなら誰も内部通報などしなくなる。すべては会社に筒抜けになって、不正を通報してももみ消されると思う社員もいるでしょう。行政やマスコミへの通報を選択する余地が生まれると思われます」

日野勝吾准教授
「由々しき事態」と指摘する淑徳大学コミュニティ政策学部の日野勝吾准教授(筆者撮影)

顧問弁護士などが窓口になっているケースは約5割

消費者庁の内部通報に関するガイドラインでは、通報に対応する窓口担当者には企業からの独立性を確保したうえで、公正中立に通報の調査に当たるよう求めている。ただ、同庁の調べでは、社外に通報窓口を設けている企業のうち、顧問弁護士など会社と関係がある人が窓口になっているケースは約5割に達する。

この状況を「問題あり」とする専門家は多い。このため同庁は改正法の指針の中で「窓口に顧問弁護士などを据える場合は、従業員の通報先選択の判断材料となるように明示すべき」といった内容を記している。

こうした現状を踏まえ、日野准教授は言う。

「顧問弁護士らが社外の窓口になること自体を疑問視する声が強いのに、今回の事例はその先を行って、会社から委任されて通報調査を担った弁護士が通報に関連した訴訟の会社側代理人になってしまった。これは通報者の秘密を使って弁護活動をするということ。

通報担当者と法廷代理人の役割が区別できない状態で訴訟を進めること自体、内部通報制度のあり方はもちろんとして、弁護士倫理にもかかわる問題ではないか。今回のような場合、会社側代理人を引き受けていいのか、日弁連には早急に見解を示してもらいたい」

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