会社の不正を内部通報した社員を襲った「想定外」 窓口だった弁護士が裁判で「会社側の代理人」に
勤務する会社の不正を正したい――。社員がそう決意したときに内部通報する窓口は、社内の担当部署か、会社が指定した社外の弁護士になるのが一般的だ。ところが、相談していた弁護士が、通報が発端となった会社との民事訴訟の場になって、「敵方」の代理人として登場したら……。
公益通報者保護制度の信頼に関わるこうした背景をもった裁判が、法曹関係者らの間で波紋を広げている。
「こんな不合理が通用するなら誰も安心して内部通報できなくなる」
「『利益相反』の見地からこの弁護士の行為は看過できない」
複数の専門家はそう指摘する。
薬機法違反などを内部通報
東京地裁でスタートした問題の裁判の被告は、外資系の製薬会社A社(東京)。原告は同社に勤務するB氏。「内部通報の報復としての配転人事は無効だ」などとしてB氏は2019年7月、同地裁に提訴した。
裁判で認定された事実などによると、ことのいきさつはこうだ。
B氏は2013年、薬機法違反などに該当する社内の営業活動について上司に複数回、内部通報して是正を求めた。2016年春にも別の事案に関して内部通報した。しかし、「会社は改善を図ろうとしていない」と感じたB氏はアメリカの親会社のコンプライアンス室への内部通報に踏み切った。不正と思われる事案を列挙したうえで、「上司に通報したにもかかわらず対応してもらえず、かえって嫌がらせを受けている」と訴えた。
だが、この内部通報も期待は裏切られる。親会社のコンプライアンス室は社外の通報窓口として、日本の弁護士を指定。弁護士は証拠の有無などを含めてB氏から通報内容に関する情報を聞き取って調査したものの、不正と認めたのは1件のみ。薬機法違反を含む他の事案については「問題が確認できない」とされた。
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