会社の不正を内部通報した社員を襲った「想定外」 窓口だった弁護士が裁判で「会社側の代理人」に

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B氏と会社側の関係が悪化する中、医薬業界向けのインターネットのニュースサイトに2018年9月末、薬機法に関するA社の不正行為の記事が連日掲載された。報道を受けて厚生労働省は事実確認をした後、A社に行政指導を実施。結果としてB氏の内部通報の正しさが裏付けられた。

この報道から3カ月後。B氏は「営業成績の不振」などを理由として会社から配置転換を打診される。営業現場の第一線から外れることを告げられ、翌2019年2月からの新たな業務は他の営業社員のサポートなど。この配転から約1年半後には第2の配転部署に異動となり、文献調査や社内研修資料の作成が中心業務となった。

「配転人事は無効」とのB氏の訴えに対し、今年2月下旬の東京地裁の判決は「配転人事には合理性があり、内部通報の報復とは認められない」と退けた。内部通報と配転人事の関係については「原告の内部通報、あるいはインターネット記事や厚生労働省の行政指導への原告の関与に対する報復として、配転を行ったと認めるに足りる的確な証拠はない」などとした。

東京地裁
東京地方裁判所(筆者撮影)

内部通報の窓口の弁護士が会社側代理人として登場

判決の結果は別にして、一審を通じてB氏には納得できないことがあった。会社から「第三者」として指定され、自らの内部通報についてその詳細を伝えた弁護士が、裁判で会社側代理人の1人として登場したからだ。

今春、東京高裁に控訴したB氏側は、控訴理由の中でこう主張した。

「驚くべきことは内部通報の調査を担当した弁護士や、同じ事務所の弁護士が、被告代理人に就いていること。内部通報を原因とする労使紛争に、当該通報の調査を担当した弁護士が企業側代理人に就くことは通報制度の信頼を根本から失わせ、弁護士倫理のうえからも禁忌すべきものである。まして、行われた調査のずさんさは厚労省の是正勧告で明らか」

一方、被告の会社側は「社外カウンセルとして、社内調査を担当した外部の弁護士が調査に関連する争いに関与しえないという弁護士倫理は存在しない」と反論した。

同じ弁護士が社員から内部通報の内容を聞き取って調査する一方で、内部通報が原因の訴訟では社員の「敵」となって対峙する。前代未聞のこうした事態をどう見るか。同じ事例がほかにも潜在してはいないか。

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