「報酬減でも定年後の仕事に満足」な人が多い理由 「やりがいある仕事を奪われ失意」は現実と乖離

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自身の仕事に対して大きな責任を持ち、働くことに人生を賭ける生き方も一つの生き方である。しかし、仕事にかかわらず何事もそうであるが、一つのことだけに人生を賭ける生き方をしていると、いざそれがうまくいかなくなったときに大きな喪失感を覚えることになる。そう考えれば、自身の人生のほとんどを仕事に費やすような生き方は、どこか脆い生き方でもある。

一方で、定年後は仕事から、家庭・家族、芸術・趣味・スポーツ、地域・社会活動などほかの活動に関心が移っていく。

仕事はポートフォリオの一部に

ここで重要なのは、まず第一に、様々な活動に対して関心が分散されるということである。自分の人生のなかでいくつかの居場所を持ちそこでポートフォリオを組むということは、将来起こり得る様々なリスクを踏まえれば、好ましい生き方であると言える。

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そして、第二に重要なことは、そのポートフォリオのなかに仕事がしっかりと組み込まれているということである。仕事が自身のほとんどであるという時代を経て、定年後にはやがて仕事は生活の一部分となる。しかし、そのなかでも確かに自身の大切な一部分を占め続けるのである。

定年後の人が、仕事のサイズが小さくなるなかでも仕事に前向きに取り組んでいる事実と、ここにあるように多くの人が歳を取るに従い、仕事の位置づけを低下させていることは互いに関連しているはずである。

70歳になっても、80歳になっても、健康でありさえすれば人生の最後まで働き抜くことが求められるこの時代。自身の能力と仕事の負荷の低下を感じながら仕事をしていくことは誰もが避けられない現実となる。

昨今、定年後に、やりがいのある仕事を奪われ、失意に暮れる姿がクローズアップされがちだが、実態はそうではない。定年後のキャリアにおいては、体力や気力の変化と向き合いながらも、いまある仕事に確かな価値があると感じたとき、人は心から楽しんで仕事に向かうことができる。多くの人は意外にもこうした境地に自然にたどり着いているのである。

坂本 貴志 リクルートワークス研究所研究員・アナリスト

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さかもと たかし / Takashi Sakamoto

1985年生まれ。リクルートワークス研究所研究員・アナリスト。一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。著書に『統計で考える働き方の未来――高齢者が働き続ける国へ』(ちくま新書)がある。

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