イオンモールが全国制覇を成し遂げた戦略の秘密 「エコシステムの革新」はデジタルのみにあらず

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このようなエコシステムの広がりを見落とすと、今日のビジネスでは大きな失敗を免れえない。単独の映画館、単独のブランドショップ、単独のペットショップではイオンモールにとうてい太刀打ちできない。

単体のカメラとして、どれだけ見事に作られても、今日ではマニア層の需要を満たすことしかできない。はたまた漫画やアニメにしたところで、ファンアートや考察の広がり、ツイッターでバズることまで視野に入れなければ、ヒットは難しい時代なのである。

ディスラプション「断絶」とエコシステムの革新

もう1つの、ディスラプションという言葉は、どういう意味なのだろうか。

中川功一(なかがわ・こういち)/1982年生まれ。2004年東京大学経済学部卒業。2008年同大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。大阪大学大学院経済学研究科准教授などを経て独立。現在、株式会社やさしいビジネスラボ代表取締役、オンライン経営スクール「やさしいビジネススクール」学長。専門は経営戦略、イノベーション・マネジメント。「アカデミーの力を社会に」を使命とし、多方面にわたって経営知識の研究・普及に尽力している。YouTubeチャンネル「中川先生のやさしいビジネス研究」では、経営学の基本講義とともに、最新の時事解説のコンテンツを配信している(写真:中川功一)

ディスラプションとは、「断絶」すなわち「非連続な変化」を意味する言葉である。皆さんが聞いたことがあるとすれば、デジタル・ディスラプション、だろうか。デジタル技術の進展により、産業の構造や、顧客体験が非連続的に変化することをデジタル・ディスラプションという。

ZOZOTOWNによる衣類のeコマース販売や、スタディサプリ(スタサプ)によるオンラインでの予備校講義の提供はその典型である。N高もデジタル・ディスラプションであろうし、昨今のメタ(旧フェイスブック)や、テスラが行おうとしているのも、産業のデジタル・ディスラプションであろう。

ビジネス知識の学びに熱心な方であれば、クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』の契機が、ディスラプティブ・イノベーションであったことを思い出されたかもしれない(日本語で「破壊的イノベーション」と翻訳された原語がDisruptive innovationである)。

従来の価値観ではその意義を計れないようなディスラプティブ・イノベーションが起こると、既存の企業は上手に対応できない。たとえば、iPhoneが登場したとき。その価値は、大半の顧客も、通信会社も端末メーカーも、誰も理解できなかった。そういうイノベーションこそが、産業を根底から覆してしまうとしたのが、イノベーションのジレンマである。

クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』から四半世紀を経て、その後継の議論として登場したのが、ロン・アドナーによる『エコシステム・ディスラプション』なのである。

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