パウエルFRB議長が40年前の話をいま強調する訳 1970年代の「失敗」とボルカー氏の荒療治を例に

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縮小

FRBのインフレ根絶に向けた決意は固く、11月、12月のFOMCでも、幅は縮小するが利上げは継続されるだろう。FFレートの先物市場は現在、今年末に3.75~4.0%、来年央までに4.0~4.25%となり、このあたりが利上げの最終水準との見方を示唆している。

問題は、利上げによってインフレが期待どおりに沈静化するのか、そして景気のスローダウン(軟着陸)は可能なのかだ。パウエル氏は「(金利の上昇は)家計や企業にある程度の痛みをもたらすだろう」と述べたが、来年にかけ景気後退の懸念は強い。

そもそも、パウエル氏が異例な急ピッチの利上げを正当化しようとしている裏には、FRB自身のインフレに対する“診断ミス”がある。

「平均インフレ目標」が初動を遅れさせたか

パウエル氏は昨年終盤までインフレ率の上昇はコロナ禍に伴う「一時的なもの」との見方を変えなかった。そのため、テーパリング(量的緩和の規模縮小)や利上げ、量的引き締めという出口戦略の初動が半年近く遅れた印象は否めない。インフレを「一過性」「特殊要因」と主張して対処が遅れた点では1970年代のバーンズFRB議長とも共通する。

2年前のジャクソンホール会議でパウエル氏が打ち出した「平均インフレ目標」という方針も、初動の遅れに関係した可能性がある。インフレ率が2%を超えたとしても、過去との平均を考えて当分の間、ゼロ金利政策を維持するというこの方針によって、インフレに対する手綱が緩んだとも考えられるためだ。

もちろん、FRBの果敢な超金融緩和策が未曾有のコロナ禍に直面したアメリカ経済、ひいては世界経済を救ったのは疑いない。ウクライナ戦争を含め、想定外の事象によって先行きの不確実性が高まったのも事実だ。

ただ、おそらくパウエル氏自身、出口戦略が遅れたツケの重さを痛感しているのではないか。グレート・インフレーション期以来、約40年ぶりという高水準の物価上昇を許してしまった以上、いかに険しい道のりといえども、不退転の決意で金融引き締めに取り組まざるをえなくなっているのだ。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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