パウエルFRB議長が40年前の話をいま強調する訳 1970年代の「失敗」とボルカー氏の荒療治を例に
「だからといって物価安定を実現するというFRBの責務が軽減されるわけではない」と、パウエル氏はきっぱり語った。「より供給に見合うように需要を抑制するという仕事が明らかに存在している。われわれはその仕事に専念していく」。
同氏は言及していないが、1970年代はリチャード・ニクソン、ジェラルド・フォード、ジミー・カーター各政権の時代だった。そして、その大半に当たる1970年2月から1978年3月までFRB議長を務めたのがアーサー・バーンズ氏である。
「グレート・インフレーション」と称されるように、1970年代が2桁に及ぶインフレの時代となったのは、2度にわたる石油ショックの影響だけではない。バーンズ氏率いるFRBがニクソン政権などの政治的圧力を受けながら過剰な金融緩和を続け、インフレ高進に対して十分な引き締めを行わなかったことがより重大な原因であるというのが定説となっている。
「インフレは自らをも餌にする」
第2の教訓としてパウエル氏が挙げたのが、「将来のインフレに関する公衆の予想(expectations)が長期的なインフレの道筋を決めるうえで重要な役割を果たす」ということだ。経済学でいう「インフレ期待(もしくは期待インフレ率)」の重要性だ。
今のところ長期のインフレ期待は、家計や企業、金融市場などを対象とした各指標を見る限り、十分に安定した状態を保っている。しかし、「インフレ率がFRBの目標(2%程度)を大幅に上回っている現状、インフレ期待の安定は安心する根拠とはいえない」と同氏は言う。
1970年代には、インフレが高進し、高インフレの予想が家計や企業の経済的意思決定に定着していった。インフレが進めば進むほど、より多くの人々はインフレが高止まりすると予想するようになり、その考えを賃金や価格決定に組み込んでいったのである。
ここでパウエル氏が引用したのが、ボルカー氏の言葉だ。インフレが最高潮にあった1979年8月にFRB議長となったボルカー氏は同年10月の議会証言でこう述べている。「インフレは自らをも餌にして育っていく。だからこそ、より安定的で生産的な経済に戻していくには、インフレ期待による支配から脱却しなければならない」と。
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