政治家の「二股」を黙認してきた宗教団体の末路 2022年の夏は日本宗教史の大転換点になる

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近年、「パワースポット」や「スピリチュアル」といった志向で神社仏閣に足を向ける若者が増えている事実はある。ただ、彼らは観光客的な目線で宗教的雰囲気を「消費」する人々であり、特定宗教団体に入信する例は少ない。

統一教会も安倍氏銃撃事件が起きたがゆえに世間の注目の的になってしまったが、票数としては数万票程度。創価学会票はおろか幸福実現党の票数にも遠く及ばない。2012年に教祖文鮮明(ムン・ソンミョン)が死去して以降は妻の韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁と息子たちによる親族内争いが表面化し、教団の求心力は衰えていた。安倍氏の事件がなくとも、組織としては既に息切れし始めていたのだ。

参政党と福音派が議席を確保

ゆるやかに凋落してきた宗教界に、安倍元首相銃撃事件は衝撃をもたらしている。2022年の夏は、この国における「政治と宗教」の大きな転換点として記憶されるだろう。

それは、安倍元首相銃撃事件が宗教団体の衰退に一気に拍車をかけるという意味だけではない。「政治と宗教」の新しい形が垣間見えたのだ。

まずは国政選挙初挑戦で1議席を獲得した参政党の存在である。参政党は宗教政党ではないが、出馬した候補者たちに「宗教っぽい人々」が目立った。「聖書的保守主義を名乗る牧師」、「コロナ禍の到来を事前に予見したとする占星術師」、「他人の身体に触れることによって真なる健康と生命力を開花させると称するセラピスト」といった面々だ。

参政党の候補者が選挙を通じて自分たちの「信者」を募っていた状況は確認されていない。ただし、スピリチュアルな「宗教っぽい癒し」を求める人々の共感を集めたのは事実だ。現に議席を確保しており、日本人の新しい宗教観を反映した政党と言えるのかもしれない。

さらに、日本維新の会からは金子道仁氏というキリスト教福音派の牧師が比例で当選した。福音派は現在、世界的規模で存在感を増すキリスト教の一派で、政治的傾向は保守。特にアメリカのドナルド・トランプ前大統領の強力な支持基盤として知られた信仰勢力だ。キリスト教の地盤が薄い日本で、今後どこまで存在感を発揮していくかは未知数だが、福音派が日本の国会で議席を取った意味は小さくないだろう。

連日のマスコミによる統一教会批判は「宗教は怖い」という社会の空気を強め、宗教団体の力を削いでいくだろう。その裏側で、スピリチュアルな雰囲気に下支えされた新しい「宗教っぽい運動」や外来の宗教が台頭している現実を見逃すべきではない。

その意味でも2022年という年は、この国の宗教史の節目になるはずだ。

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小川 寛大 『宗教問題』編集長

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おがわ・かんだい / Kandai Ogawa

1979年熊本県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。宗教業界紙『中外日報』記者を経て、2014年、宗教専門誌『宗教問題』編集委員、15 年に同誌編集長。著書に『神社本庁とは何か』(K&Kプレス)、『南北戦争』(中央公論社)、『創価学会は復活する!?』(共著、‎ ビジネス社)など。

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