アメリカの裏庭「中南米」で中国の存在感が増す訳 ブラジル大統領選が迫る中、周辺国は左派台頭

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また、台湾と外交関係を持つ世界14カ国のうち半数以上の8カ国が集まる中南米で、中国は外交関係の切り崩し工作にも邁進している。

経済支援などで圧力を強めたことで、2017年以降、パナマやドミニカ共和国、エルサルバドル、ニカラグアが台湾と断交して中国との国交樹立に転じた。台湾との関係を依然維持しているグアテマラ、ホンジュラス、パラグアイなどを取り込もうと、中国は新型コロナウイルスのワクチン提供を働きかける動きも強めた。

さらにアルゼンチン南部のパタゴニア地方には中国の宇宙関連施設がある。中国は、債務危機に陥った同国の左派クリスティナ・フェルナンデス政権と2009年に最大約1兆円の通貨交換協定を締結して接近し、2010年から建設地選定を進め、2018年から施設の稼働を始めた。

中国側は月や火星の探査活動のためと標榜しているが、中国人民解放軍で宇宙空間やサイバー攻撃を担当する「戦略支援部隊」所属とみられる中国衛星発射観測制御システム部(CLTC)がこの宇宙関連施設を運営しており、情報収集など軍事目的との疑惑は強まる一方だ。

またクリスティナ・フェルナンデス氏の後継で、同じく左派のフェルナンデス現大統領は今年2月、中国が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」参加の覚書にも署名している。

バイデン大統領は中南米との関係に苦戦

一方、今年11月に中間選挙を控え、民主党支持基盤であったヒスパニック系住民の支持を固めるのに懸命なアメリカのバイデン大統領はトランプ前政権下での「中南米ネグレクト」とも言える軽視策からの脱却に苦しんでいる。

今年6月にはアメリカのロサンゼルスで、アメリカやカナダ、中南米の首脳が集まる米州首脳会議を主催し、地域の盟主たる立場をアピールしようと狙ったが、専制主義的なキューバ、ベネズエラ、ニカラグアを排除したことが裏目に出た。

その結果、メキシコ、ホンジュラス、ボリビアなどの左派首脳らがボイコットし、実に3分の1の国が開会式を欠席。中国の影響拡大を阻もうと焦ったバイデン氏の誤算によって、逆に地域の盟主としての地位が揺らぐ事態が表面化したのだ。

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