アメリカの裏庭「中南米」で中国の存在感が増す訳 ブラジル大統領選が迫る中、周辺国は左派台頭

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チャベス氏ががんを患って2013年に死去すると、マドゥロ氏が後任の大統領に就任した。だが指導力を発揮することができず、強引な企業の国有化や施設老朽化の影響で、ベネズエラの石油生産は大きく低迷した。

資源価格下落も伴ってベネズエラは危機に陥り、中南米の左派諸国への石油の支援に手が回らなくなった。その結果、チリやアルゼンチン、ブラジル、ペルーなどで右派政権への揺り戻しがあったほか、ホンジュラスでは軍事クーデターによる政権交代も起きた。

そんな中で、大きな変化が起きたのが、2018年だ。その前年にアメリカでトランプ大統領が就任すると、1929年から中道右派政権が続き伝統的にアメリカとの結びつきが強かったメキシコで史上初めての左派政権が誕生した。

トランプ氏は北米自由貿易協定(NAFTA)の解体や、メキシコ国境の壁の建設を、声高に主張。これに反発したメキシコ国民は、トランプ氏に対等な対話を求めるなど、強硬姿勢を強めると宣言した左派のロペスオブラドール氏を大統領に選んだのだ。

翌年にはアルゼンチンでも、中道右派政権下での格差拡大や景気低迷を背景に、左派政権が返り咲いた。トランプ政権による中南米軽視も重なったことで、その波はほかの中南米諸国にも広がっていった。

中国は中南米の大きな貿易相手国

こうしてアメリカが中南米に目を背けている間に、中南米で存在感を高めているのが中国だ。

南米全域で言えば、中国はアメリカを上回る貿易相手国だ。さらに中南米全域での貿易総額は年4500億ドル(約63兆円)に上り、2035年には7000億ドル(約98兆円)を超えると予想されている。

アメリカの中南米分析機関インターアメリカンダイアログによると、中国は2005~2019年に中南米諸国に合計1380億ドル(約19兆3200億円)以上の融資を実行しており、この額はアメリカの融資額を上回る。

うち半分近くを占めるのがベネズエラで、担保の多くはまだ掘削されていない原油だ。そのほか305億ドル(約4.3兆円)のブラジル、182億ドル(約2.5兆円)のエクアドル、170億ドル(約2.4兆円)のアルゼンチンと、資源・食料生産大国が上位に連なる。

また融資分野別で言えば、エネルギーが946億ドル(約13兆円)、インフラが261億ドル(約3兆円)を占めており、ここから中国の中南米に対する狙いは、将来の資源・食料確保にほかならないことがわかる。

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