東大調査報告書で考える「成功者による差別」の芽 他人にきつく「自己責任論」をふりかざすのは誰か

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マジョリティ層が自分たちの「標準」を他者に押し付けたり、序列化して他者を見下したりすることは、マイノリティの女子学生、性的マイノリティ、そしてこのようなカルチャーに居心地の悪さを覚える男子学生……に知らず知らずのうちに刃を剥いている

自覚がないエリートが多い

国際的にも、社会経済的に有利な地位に就いている人のほうが、不平等な出来事に寛容である傾向が指摘されている(※4)。自分の学歴や、それによって得られた地位を自分の努力で勝ち取ったと思う人は、様々な理由で低学歴になった人に対して努力しなかった本人が悪いと自己責任論を振りかざしやすい。

2019年の上野千鶴子名誉教授の東大での式辞でも言及され、教育社会学では長らく指摘されてきたことなのだが(※5)、努力できる環境や意欲自体が平等に割り振られているわけではない

にもかかわらず、生まれ持った環境や親の経済資本・文化資本などの恩恵を受けている高学歴エリート層の中にはその自覚がない人も多い

前回記事で、過熱する中学受験の様相を取り上げたが、とりわけ受験経験があまりにハードモードであれば、そこで頑張った成果というのは環境や運ではなく、自分の力で勝ち得たものだと思いたくなる心理も働くだろう。

ジャーナリストの中野円佳さんによる連載、第11回です(画像をクリックすると連載一覧にジャンプします)

大事なわが子を3年以上、週に数回の高頻度で通わせる塾をどのような基準で選んでいるだろうか。進学先の学校選びにおいても、偏差値以外の要素を事実上どれだけ重視しているだろうか。

偏差値主義に追い立ててはいないか。男尊女卑的な価値観が蔓延していないか。進学実績以外のカルチャーをきちんと見ることができているか。

近年、世界的にも、政治やビジネスの場面で、成功者に見えていた人たちが差別発言やハラスメント加害者となり失脚することが増えている。今回紹介した東大の現状と変化を知り、親たちがわが子の将来のために、考えておくべきことは少なくないかもしれない。

(次回に続く)

※1:ダイアン・J・グッドマン(出口真紀子, 田辺希久子訳)2017,『真のダイバーシティをめざして: 特権に無自覚なマジョリティのための社会的公正教育』上智大学出版
※2:江原由美子 1999, 「男子校高校生の性差意識--男女平等教育の「空白域」?」 教育学年報, no. 7 (September): 189–218.
※3:寺町晋哉 2021,「『性別』で子どもの可能性を制限しないために」中村高康・松岡亮二編著『現場で使える教育社会学』ミネルヴァ書房.
※4:Roex, Karlijn L. A., Tim Huijts, and Inge Sieben. 2019. “Attitudes towards Income Inequality: ‘Winners’ versus ‘losers’ of the Perceived Meritocracy.” Acta Sociologica 62 (1): 47–63など
※5:苅谷剛彦 2001,『階層化日本と教育危機: 不平等再生産から意欲格差社会へ』有信堂高文社など
中野 円佳 東京大学男女共同参画室特任助教

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なかの まどか / Madoka Nakano

東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社入社。企業財務・経営、厚生労働政策等を取材。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程(比較教育社会学)を経て、2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年より特任助教。過去に厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員を務めた。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『教育大国シンガポール』等。

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