テレビに出る研究者が「優柔不断」に映る納得事情 何でもズバッと言い切る専門家は話題になるが…

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この大きな仮説を検証する上で、さらに細かな仮説を検証する必要があります。このような仮説は、作業仮説と呼ばれており、作業仮説の検証を行った結果、また新たな疑問が出てきて次の作業仮設の検証に入ります。

このように作業仮説の検証を繰り返すうちに、大きな仮説の検証作業が進んでいるというのが研究の一連の流れになります。ひょっとするとこのような流れは、研究に限らず一般の社会でも、家庭でも行われているものかもしれません。それを愚直にやっているのが、研究者の仕事です。

したがって、まず何がわかっていて何がわかっていないのか、という歴史を知ることが重要です。その上で、湧き上がる疑問点や未解決の問題点を挙げます。それに対する一般的な解決法を提案していきます。その中で自分が解くべき問題の仮説を立て、それを検証することが研究の目的となります。その具体的な検証方法があり、検証結果があります。結果を受けて、過去の研究を引き合いに出しながら、自分で広げた風呂敷を回収するのが、考察となります。

これが研究計画であり、論文の構成でもあります。予算の申請書も、プレゼンテーションもすべてこの順番で行うことが、研究者のお作法になっています。

したがって、研究者と話すときや、研究者に何かを説明する際は、この順番を意識するだけで、専門家の先生の機嫌を損ねずにお話を聞いてもらえるかもしれません。

研究者にとっては、すべては仮説にすぎず、それを検証できない限りは予想であって、断言はできないのは以上のような理由からです。しかも仮に検証できたとしても、その可能性があることが示唆されるのみであり、また新たな仮説が生まれるだけなのです。

「再現できないこと」は信じられない

さて、研究者が慎重な物言いをするもう1つの理由が、再現性の問題です。再現性とは、同じ条件で同じ結果がもう一度得られるということです。たとえば、りんごが木から落ちるという現象は、何度やっても同じ結果になります。5回に1回は、下から上に飛び上がるということはあり得ないわけです。

一方で、生物学や人間に関わることなど、不確定な問題では、再現性が指標となります。仮説を立て、検証した結果、その現象が生じるのはたまたまなのか、たまたまでは済まされないことなのかを検討する必要があります。物理現象のように、何度やっても必ずそうなるということはごく稀で、生物学では、たとえばそれが100回のうち99回なのか、50回なのかという議論になります。

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