テレビに出る研究者が「優柔不断」に映る納得事情 何でもズバッと言い切る専門家は話題になるが…

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逆に、断定的なことばかりを言う研究者がいたら、それは要注意です。テレビなどでは台本もあるでしょうから、そういう役回りで仕方ないのだろうなと思うこともありますが、SNSなどを見ていると、ズバッと言い切る人ほど、高評価を得られる傾向があります。同時に炎上することもしばしばありますが、話題にはなります。しかし、それは話題作りとしては良いのかもしれませんが、研究者としては、望ましいものの言い方ではありません。

研究者になるまでに徹底的に鍛えられてきた価値観

では、研究者はどうしてそういう回りくどい考え方をするようになってしまったのでしょうか。それは、研究者になるまでに徹底的に鍛えられてきた、ある価値観を理解する必要があります。それはつまり、「仮説と検証」です。

研究というものは、ある日突然降って湧いてくる類のものではありません。長い歴史の中で、何がわかっていて何がわかっていないのかを理解している必要があります。1人の研究者が、1つの論文ですべての謎を解き明かすような研究は、まずありません。とある条件のもとでは、こういうことがここまでがわかった、ということを報告するのが論文の役割です。

しかも、科学をやっているのも人間ですから、間違うこともありますし、その後まったく新しい知見が見つかって過去の知見が否定されることもあります。しかし、だからと言って過去の知見に価値がないということではなく、否定されて更新されていくことが価値だと考えられます。

私は研究を行う際には、必ず仮説を立てよと徹底的に教育されてきました。仮説というのは、「もし仮にそれが正しいとしたら」と一時的に正しいとしておくアイデアや、これまでの結果から「こうじゃないか」と予想される考え方のことです。場合によっては、それは否定されるかもしれませんし、一部は正しいという結果が出るかもしれません。

仮説と事実を分けるというのは、研究者でも難しいものですが、仮説はあくまで仮説であって、それに対して意見を求められても、「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。むしろそれが正しいと言えるためには、あと何がわかればよいと思うか慎重に考える必要がある」としか、コメントのしようがないのです。

中には、とりあえずいろいろやってみたら面白いことが見つかったというようなデータ駆動型(データドリブン)の研究もありますが、それにしてもそもそもどうしていろいろやってみようと思ったのか、そのきっかけにはまず、検証したい大きな仮説があったはずです。このように仮説を立てそれを検証するというスタイルは、仮説検証型(仮説ドリブン)研究と呼ばれています。

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