テレビに出る研究者が「優柔不断」に映る納得事情 何でもズバッと言い切る専門家は話題になるが…

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特に現代生物学においては、この再現性が唯一絶対の指標であり、再現性を唯一神とする宗教であると言っても過言ではないでしょう。つまり、我々に知ることのできるのは、何回も検証を行った結果それがどれくらい確からしいかを知る、つまり確率を知ることだけなのです。

そのため、現代科学の範疇では、1回しか起こらないこと、たとえばあなたとわたしの違いような個性の問題などには答えられません。条件Aをもつ集団と条件Bをもつ集団の違いというような問題にしか検証作業ができないのです。

したがって、統計学の知識が欠かせないものとなりますし、得られる結果も、確率でしかありません。仮説が正しいという確率が高いけれど、必ずしもそうとは言い切れないというような結論しか出ないのです。

だから、研究者は何を聞いてもはぐらかすとか、不確定なことしか言わない、優柔不断と思ったなら、その研究者はある意味、研究者として正しい姿勢を貫いていると言えるでしょう。

データに対して公平であるために

さらに公平性を期すためには、検証を行う人が、現在どんな条件の対象を検証しているのかを知らないということが重要になります。人間、どうしてもバイアスや主観が入ってしまうからです。

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さらに、得られたデータを統計解析する人は、検証を行った人とは別の人間で、しかも、自分が解析しているデータが、どんな条件のものか知らないということが求められます。

最終的に、検証結果を合わせるときに、どちらがどちらの条件だったかを知ることになるわけです。このような試験方法は、二重盲目(ダブルブラインド)試験と呼ばれています。そこまでしてようやく、公平性の担保されたデータとなり得るわけです。

したがって、どのような方法で検証されたかもわからないようなデータを見せられても、専門家は口をつぐんでしまうしかないということになります。科学の最低限のルールを守れていないものに対してはノーコメントというほかありません。別に意地悪をしているわけではないのです。

毛内 拡 お茶の水女子大学 基幹研究院自然科学系 助教

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もうない ひろむ / Hiromu Monai

1984年、北海道函館市生まれ。2008年、東京薬科大学生命科学部卒業2013年、東京工業大学大学院総合理工学研究科 博士課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員を経て、2018年よりお茶の水女子大学基幹研究院自然科学系助教。生体組織機能学研究室を主宰。脳をこよなく愛する有志が集まり脳に関する本を輪読する会「いんすぴ!ゼミ」代表。「脳が生きているとはどういうことか」をスローガンに、マウスの脳活動にヒントを得て、基礎研究と医学研究の橋渡しを担う研究を目指している。研究と育児を両立するイクメン研究者。分担執筆に『ここまでわかった! 脳とこころ』(日本評論社)など。

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