日本の20年後「医療・福祉が最大産業」という異様 ほかの産業が成長するのとは性質が大きく異なる

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医療・介護需要が増大するのだから、医療・福祉産業が拡大するのは、当然のことだ。しかし、この産業は、これまでの日本の主力産業とは、性格が著しく異なる。

他の産業の場合には、われわれの生活をそれまでよりも豊かにしたり、生産活動をより効率的にしたりするモノやサービスを供給してくれる。しかし、医療・福祉の場合は、病気を治癒するだけだ。つまり、マイナスになるのを抑えるだけのことだ。

生活がこれまでより豊かになるわけではない

もちろん、それは極めて重要なことだ。しかし、それによって、生活がこれまでより豊かになるわけではない。

言ってみれば、「病気で死なないことだけで精一杯。それ以上のことには手が回らない」ということだ。

医療・福祉産業が成長したところで、われわれが普通イメージするような消費や投資が増えるわけではない。それによって日本の輸出が増えるわけでもない。日常生活が大きく変わるわけでもない。こうした意味で、他の産業とは性質が大きく異なるのだ。

そのような産業が日本最大の産業となる。

だから、日本経済の姿は、これまでのものとは異質のものにならざるをえない。株式市場の機能や様相も、大きく変わるだろう。

このような経済は、現在のそれとはあまりに異なるものだ。しかも、これまでどの国も経験したことがないものだ。だから、果たしてこのような経済を実際に維持できるのかどうか、強い危惧を抱かざるをえない。

医療・福祉産業においては、他の産業でのり売上げに相当するものが、市場を通じるのではなく、医療保険や介護保険といった公的な制度を通じて集められる。だから、資源配分の適正化について市場メカニズムを通じて行えない。

医療単価の決定などの公的な決定によって、資源配分が大きく左右される。こうした制度で資源配分の適正化を実現するのは、きわめて難しいだろう。

さらに、医療・福祉制度を機能させ続けるには、医療・介護保険の財源を確保することが重要だ。

今年7月の参議院選挙で、野党は、物価対策として消費税の減税政策を掲げた。しかし、仮にそうした政策を実行すれば、将来の医療・福祉は、深刻な危機に陥る。長期的な見通しを踏まえて、責任ある経済政策が求められる。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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