医療・介護需要が増大するのだから、医療・福祉産業が拡大するのは、当然のことだ。しかし、この産業は、これまでの日本の主力産業とは、性格が著しく異なる。
他の産業の場合には、われわれの生活をそれまでよりも豊かにしたり、生産活動をより効率的にしたりするモノやサービスを供給してくれる。しかし、医療・福祉の場合は、病気を治癒するだけだ。つまり、マイナスになるのを抑えるだけのことだ。
生活がこれまでより豊かになるわけではない
もちろん、それは極めて重要なことだ。しかし、それによって、生活がこれまでより豊かになるわけではない。
言ってみれば、「病気で死なないことだけで精一杯。それ以上のことには手が回らない」ということだ。
医療・福祉産業が成長したところで、われわれが普通イメージするような消費や投資が増えるわけではない。それによって日本の輸出が増えるわけでもない。日常生活が大きく変わるわけでもない。こうした意味で、他の産業とは性質が大きく異なるのだ。
そのような産業が日本最大の産業となる。
だから、日本経済の姿は、これまでのものとは異質のものにならざるをえない。株式市場の機能や様相も、大きく変わるだろう。
このような経済は、現在のそれとはあまりに異なるものだ。しかも、これまでどの国も経験したことがないものだ。だから、果たしてこのような経済を実際に維持できるのかどうか、強い危惧を抱かざるをえない。
医療・福祉産業においては、他の産業でのり売上げに相当するものが、市場を通じるのではなく、医療保険や介護保険といった公的な制度を通じて集められる。だから、資源配分の適正化について市場メカニズムを通じて行えない。
医療単価の決定などの公的な決定によって、資源配分が大きく左右される。こうした制度で資源配分の適正化を実現するのは、きわめて難しいだろう。
さらに、医療・福祉制度を機能させ続けるには、医療・介護保険の財源を確保することが重要だ。
今年7月の参議院選挙で、野党は、物価対策として消費税の減税政策を掲げた。しかし、仮にそうした政策を実行すれば、将来の医療・福祉は、深刻な危機に陥る。長期的な見通しを踏まえて、責任ある経済政策が求められる。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら