集中力の続かない人が重視すべき持久力の鍛え方 まず取り組むべきは持久力を強化すること
そこで私は、別の角度から「集中」というものを考えることにしました。ビリヤードの著名なインストラクターである須藤路久氏に、「ビリヤードの試合中、どのくらい集中していますか?」と訊ねたことがあります。
すると、こんなお答えが返ってきました。
「試合中の1割くらいが精一杯です。仕合時間が1時間だとしたら、合計すれば6分くらいですかね……。それ以上は集中力が続きません」
プロでも数分しか集中できない!
驚愕しました。世界的に有名な長年熟達したプロでさえ、たった1時間も集中力が続かないとは!
そこで私は、卓球、テニス、バドミントンなど、とりわけ集中力が必要とされるスポーツを動画で見て確認し、あらゆる時間を計測してみました。すると、卓球のラリーでは、選手たちがボールに集中している時間はとても短く、サービスを打ってからラリーが続いている時間より、インターバルの時間のほうがはるかに長いことに気づきました。
また、慶應義塾大学の野球部で、かつてピッチャーとして活躍した林秀晃氏は、次のように言っていました。
「基本的に、マウンドに上がってプレイのコールがかかると、チェンジになるまで気は張っています。ただ、集中となるとどうでしょうか……。プレートを踏んでから、キャッチャーのサインを見て、投げ終わって打球の方向を捉えたところまでが、邪念のない状態でしょう。そのあいだは、静寂の状態の中にいる感覚です。ですが、マウンドにいるあいだ、ずっとこの状態にいるわけではありませんから、集中となると時間的には2割くらいがいいところでしょう。ましてや、ランナーがいるとバッターだけに対して集中するのは難しくなります」
以上のように、熟練したアスリートたちでさえも、本当に集中できる時間は極めて短いのです。ですから、私たちがどんなに真剣になって勉強や仕事に取り組んでいても、雑念を振り払って集中できている時間は、多くて2割から3割くらいでしょう。
では、残りの7割や8割の時間、私たちは何をしているのでしょう。結論から言うと、集中するための「脱力」や「リラックス」をおこなっているのです。
卓球選手が首を振ったり、ボクシングの選手がガードを降ろして肩をリラックスさせたり、野球選手がグラブをポンポン叩いたり、テニス選手がサービス前にボールをトントンと地面に弾ませたり……要は「リラックス状態にある」のです。
もちろん、リラックス状態といっても、完全に試合から気持ちが離れているわけではありません。完全に集中はできていなくても、最大の関心事は試合に勝つことであり、それに関しては必死に取り組んでいるはずです。
ただし、ご本人たちも認めているように、ずっと集中しているわけではありません。試合に取り組んでいる時間の多くはリラックス状態でありつつ、すぐ集中状態に入れる「モードをキープ」しているのです。
そこで本書では、用語が紛らわしくならないように、試合に取り組んでいる時間やタスクに取り組んでいる状態を「持久」と呼び、雑念がまったく入らない状態を「集中」と呼ぶことにします。持久している時間の中に「集中」を上手に振り分けることで、一流アスリートたちは長時間のゲームでも集中して取り組めるのです。
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