人類史上、今はもっとも平和な時代である 人類は絶え間なく戦争をやってきた

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暴力が減少していく一方で、向上を続けてきたものがある。それは、人類の理性の力抽象的推論能力だ(後者の継続的向上は「フリン効果」と呼ばれる)。

2つの力の組み合わせによって、私たちは自己の経験に囚われることなく、広い視野を持ち、暴力回避という選択肢を選ぶことができるようになっているのだ。

現代を生きるわれわれの思考はすでに、近代以前を生きていた人びとのそれとは異なっているという。ある心理学者が、ソ連の僻地に住む農民に行った質問とその回答には、驚かざるをえない。

Q:魚とカラスに共通する点はなんですか。

A:魚か―魚は水中に住む。カラスは空を飛ぶ。もし魚が水の上にちょっと顔を出せば、カラスがそれをつつく。カラスは魚を食べられるが、魚はカラスを食べられない。

質問者が「動物」というヒントを出しても、回答者はその意図を理解できなかった。これでは他者の視点に立つことは難しいだろう。徹底して自身の経験にのみ基づくことが他者との摩擦を増大させ、その後の暴力の呼び水となることは想像に難くない。

これまでの歴史を考察し、未来ヒントに学べる1冊

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ここで紹介したもの以外にも、暴力減少のメカニズムに対するゲーム理論を用いた考察など興味深い点をあげればきりがない。

そして、この大著を通してピンカーが繰り返し強調しているのは、本書は予言の書でないということ。本書で示されたのはあくまで過去の事実とその因果関係への考察であり、これからも暴力が減少し続けていく確証などないのだ。

それでも、歴史をつぶさに観察すれば、人類が今後より大きな暴力に見舞われる確率は小さくなっていると考えられる根拠は多く、人類はこれまでに暴力を制御することに成功した要因から学べるはずだ。より平和な未来をつくるためのヒントがこの本にはある。

村上 浩 HONZ

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むらかみ ひろし / Hiroshi Murakami

1982年広島県府中市生まれ。京都大学大学院工学研究科を修了後、大手印刷会社、コンサルティングファームを経て、現在は外資系素材メーカーに勤務。学生時代から科学読み物には目がないが、HONZ参加以来読書ジャンルは際限なく拡大中。米国HONZ、もしくはシアトルHONZの設立が今後の目標。

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