人類史上、今はもっとも平和な時代である

人類は絶え間なく戦争をやってきた

中世まで戻らなくとも、21世紀で暴力を抑えこむことに成功していると実感するような、過去の野蛮を示す事例は山ほどある。

ほんの60年前、米国大統領ハリー・トルーマンは、歌手の卵だった娘のデビュー公演を批評家にこきおろされた。そして、怒りにかられたトルーマンはこの批評家に「ぶん殴ってやる」という主旨の手紙を送りつけたのだ。現代では権力の頂点にあるものが暴力行為をほのめかすことさえ考えられないが、当時、このようなトルーマンの姿は騎士道精神の現れとして尊敬されていた。

暴力はその数や強度が減少しているだけではなく、暴力に対する考え方も大きく変化している。

なぜ、どのようにして、こんな変化が起ったのか。人間は暴力性にまみれた悪魔なのか、それとも真に暴力を克服できる天使なのか。

暴力性が減少してきた経緯

剣を振りかざしていた中世の騎士たち(写真:Panama / Imasia)

これらの問に答えるために、著者はまず暴力性の後退を6つの大きなトレンドに分類して考察する。

その6つとは、狩猟採集から統治機構を持つ農耕社会への移行に伴う「平和化のプロセス」、中世後半からみられた中央集権的統治と商業基盤の確立による「文明化のプロセス」、ヨーロッパ啓蒙主義によって奴隷制や拷問・迷信などを克服した「人道主義革命」、第二次第戦後に超大国・先進国同士が戦争をしなくなった「長い平和」、冷戦終結後に紛争・内戦・独裁政権による弾圧が低下した「新しい平和」、そして1948年世界人権宣言以降に少数民族や女性に対する暴力が嫌悪されるようになった「権利革命」である。

あらゆる角度から、暴力減少の経緯が確かめられ、その変化をもたらした外的要因が分析されていく。

そして、ここから進化心理学者たるピンカーの本領発揮。人類の心に潜むどのような悪魔が凄惨な暴力をもたらしてきたのか、どのような天使が暴力を抑えこんできたのかを、脳科学や心理学的システムの枠組みで読み解いていく。暴力は自尊心の不足ではなく過剰によってこそもたらされること、共感の輪を広げるよりも、個々人の権利の尊重が暴力抑制に効果を発揮することなど、巷にあふれる通説とは異なる主張も多い。

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