「ピケティ」は人口減少の日本で成り立つのか 年5%の「不労所得」はそう簡単じゃない

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だから、世の中はr>gである。結果として資本を持っている人はますます肥え太り、使われる人はやせ細る。

そういう事態を放置しておくと、「長い時間をかけて富の不均衡がどんどん固定化するからまずいでしょ」、というのが本書のメッセージとなるのだが、たぶんこの説明だと日本人的にはあまりピンとこない。

えーと、日本はそれほど大金持ちがいるわけじゃないし、アメリカのように巨額な報酬を受け取る「スーパー経営者」も今のところいない(これから出るかもしれないけど)。

相続税が高くて、「3代たてば誰もがタダの人になる」と言われるくらいだし、長者番付の顔ぶれだって30年前と今ではかなり違っている。そこは諸行無常、盛者必衰、栄枯盛衰が世の習いなんじゃないの?……というのが素直な反応になるだろう。

「格差」や「不平等」意識しなかった戦後は例外的

これが戦乱の時代であれば「驕れる者も久しからず」と言い切れるのだが、低成長で戦争のない時代が続くと、r>gの法則はより強化されてしまう。というか、20世紀がたまたま戦争と高度成長の時代であり、一時的にr<gだった時期もあったものだから、「格差はやがて縮まる」(クズネッツ曲線)という見方が正しいとされ、「世の中は努力次第」が常識、もしくは美風として定着してきた。

ところが21世紀の世界は、再びr>gとなって18世紀や19世紀のように格差が拡大しつつある。このことを、きっちりデータを積み上げて論証した点に本書の値打ちがある。

そこまで聞いて、はたと気がつく。ワシの両親は昭和ひとケタ世代で、モノのない時代に質素に育っている。戦災で家は焼かれて、戦後はインフレに見舞われ、皆がほとんどゼロからの出発を余儀なくされた。それでも高度成長期には間に合ったので、後半生ではいい目も見られたし、努力は報われると素朴に信じている。そういう人たちが今の日本社会を作ってきた。

その子供に当たるワシらの世代は、バブルもデフレも体験したけれども、親たちの教育の成果もあって基本は楽天的である。財産は個人が努力と倹約で作るのが当たり前だったから、格差やら不平等やらはほとんど意識しないで今まで生きてこられた。

だがそれは非常にラッキーなことであって、20世紀の数十年間に限られた現象であるらしい。すでにワシの子どもたちの世代は、親の収入次第で教育機会も大きく左右されるようになっている。このまま行くと、「個人の努力ではとうてい優雅で快適な人生は送れない」という19世紀型の社会に回帰するのではないか。すなわち遺産を相続するか、男性なら、金持ちのお嬢さんと結婚する以外に人生で浮かび上がる方法がない、という時代である。

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