わが子が負け組になると懸念する親が心得たい事 社会課題を教育の問題に責任転嫁するな

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何かにつけて子どもに対して不安を抱くのは親の性。親として不安を感じることは何も悪いことではありません。

ただし、不安を感じたときにすべきことは、不安をなくすために子どもを変えることではなく、自分の中にある不安の本質をよく観察することです。私の知る限り、他人との比較、あるいは競争意識が不安を大きくしている場合がほとんどです。

生きていくために〝勝ち組〟になる必要なんてありません。ひとと競争なんてしなくていい。自分の信じる道を自分のペースで堂々と生きていければ、人生は大成功です。不登校支援を行うある団体のスタッフは、「不登校経験者のロールモデルにわかりやすい〝成功者〟はいらない」とも言っていました。

親がたどり着くべき「爽やかな無力感」とは?

学校に復帰したにせよ、ホームスクーリング(学びの軸足を学校ではなく家庭に置くスタイル)で行くと決めたにせよ、不登校を抜けた保護者が一様に口にするセリフがあります。寄り添った教員たちも似たようなことを言います。

「あとから振り返れば必要な回り道だった」

実はこれ、教育虐待の沼から抜け出した親も、中学受験で絶望を感じていた親も、わが子の習い事で夢破れた親も、みんな苦しみ抜いた末に言うセリフです。親が到達すべき、ひとつのマイルストーンなんだと思います。

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では、その回り道は何のために必要だったのか。

私なりの言葉にすれば、「結局、親は無力である」と悟るためです。

わが子のためならなんでもしてやろうと確固たる思いをもって、あらん限りの力を尽くした末に、「なーんだ。この子は私の力なんてなくても、自分の人生を堂々と生きていく力をもってたんだ」と気づけたときに、爽やかな無力感が心を満たすのです。

親として、しみじみとした幸せを感じます。その瞬間、親としてしたすべての苦労が報われるのです。そして親である自分自身もひととしてまたひとまわり成長できていることにきっと気づきます。

おおたとしまさ 教育ジャーナリスト

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Toshimasa Ota

「子どもが“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子どもと一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。著書は『名門校とは何か?』『ルポ 塾歴社会』など80冊以上。著書一覧はこちら

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