西島秀俊「ユニコーンに乗って」の名演に見た希望 おじさんが若者に交じってやっていく理想の姿

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勤勉で美味しいお茶も入れてくれて何かあったら守ってくれる、身なりもきちんとしていて、言動も穏やか、若者に上から目線でなく、むしろ低姿勢。こんなおじさん、最高である。

若者とうまくやっていく方法がわからないと思う世のおじさんたちは、Z世代やミレニアル世代に関する調査報告をあれこれ読んでわかった気になるよりも、小鳥を見倣って若者たちに接するといいのではないかと提案する。

西島秀俊演じる小鳥という存在によって「ユニコーンに乗って」はシニア層とコア層を接続するドラマになり得る可能性を秘めている。「ファミリーコア」を狙った子供と親が一緒に楽しめる作品であり、20~30代とシニア層が手を取れるような作品である。映画では『今日から俺は!!』『シン・ウルトラマン』『トップガン マーヴェリック』などシニア層が若い時代に好きだった世界を現代に再生させたもので、シニア層から若者層まで取り込み、大ヒットしている。

『今日から俺は!!』はテレビドラマからはじまったので、映画公開時にはすでにシニアも若者も観に行った。『シン・ウルトラマン』と『マーヴェリック』は公開当初はシニア層が多かったようで、徐々に口コミで若者層が増えていった。これからは映画もテレビドラマもこの路線が必要とされている。

どちらの世代からも愛されるアイコン

シニア層と若者層を接続させるには内容の魅力もさることながら『マーヴェリック』のトム・クルーズのようなどちらの世代からも愛されるアイコンが必要だ。還暦間近で、あれだけかっこいいトム・クルーズのような俳優が日本にいるか。それが西島秀俊である。俳優としての華もあれば実力もある西島秀俊は懸け橋として理想的なのだ。なんといってもレンジが広い。役のレンジというよりは出演作品のレンジである。

カンヌ映画祭からアカデミー賞まで世界に注目される作品となった『ドライブ・マイ・カー』の主演から、特撮好きにたまらない『シン・ウルトラマン』の隊長役、圧倒的に女性に支持された「きのう何食べた?」に、考察ものの「真犯人フラグ」と近作だけ見ても、仕事を選ばないというと語弊がある気もするが、ほんとうに選ばない印象。そのせいで認知度はとても高い。そこがいい。だからこそ、違う世代同士を接続できるともいえるだろう。

「ユニコーン」では西島が演じる小鳥のスマホの容量は少なめで、佐奈たちの開発した自信のアプリが稼働しない。佐奈はそれをきっかけに、容量が少ないデバイスでも使いやすいものを作ろうと考える。経済格差による教育格差をなくすための教育アプリなのだから、デバイス格差を生んではいけないことに佐奈は気づくのだ。若者とおじさんがともに働く物語は、あらゆる格差をなくそうとする希望の物語だ。西島秀俊は虹の懸け橋のような俳優だ。

木俣 冬 コラムニスト

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きまた ふゆ / Fuyu Kimata

東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。

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