矢沢あい「私達の心に寄り添う」その絶妙な表現力 矢沢あいの作品を通して私たちが学んだこと
『NANA』『ご近所物語』『Paradise Kiss』『天使なんかじゃない』――。矢沢あいの作品を、学生時代に手にとったことがある人も多いのではないだろうか。
東京・新宿髙島屋で2022年7月20日~8月8日に矢沢あい総監修『ALL TIME BEST 矢沢あい展』が開催された。8月後半からは大阪、9月後半からは横浜での展示会も予定している。
会場では、心を奪われた表情で原画を見ている人たち、『NANA』のトートバッグを持ち、登場人物が愛用していたロッキン・ホース・バレリーナを履いている若者の姿など、さまざまな世代のファンを見かけた。また親子で作品について熱く語っている姿もあり、まさに世代を超えて矢沢あいの作品が愛されているのを実感した。
憧れの世界を描く天才だった
矢沢あいは1985年『りぼんオリジナル』の読み切り作品『あの夏』でデビューした。その後『マリンブルーの風に抱かれて』、『天使なんかじゃない』『ご近所物語』とヒット作が続いた。
2000年代に入っても人気は衰えることなく、『Paradise Kiss』と『NANA』は映画化もされた。まさに「平成」を生きる若者の青春とともに矢沢あいの漫画は存在したのだ。
そんな矢沢あいの作品の特徴は、読者の「憧れの世界」を描いていた点だろう。『天使なんかじゃない』の主人公の冴島翠が繰り広げる自由な高校生活、『ご近所物語』『Paradise Kiss』で舞台になるクリエイティブな服飾学校。『NANA』で描かれる華やかなバンドマンたちとの日常……。どれも誰しもが一度は憧れる夢のような舞台設定だ。実際に筆者の周りでも、『ご近所物語』の世界に憧れて服飾専門学校へ進学する人も多かった。
一方で各物語のキャラクターが過ごす世界は、「少女の憧れ」が詰まっているものの、現実的な部分もしっかり描かれている。主人公や周りのキャラクターを含め、理想と現実の厳しさにもがきながら成長している。好きな人と結ばれてハッピーエンドという、単純な少女漫画の王道ラブストーリーではないのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら