韓国初のLGBTQ区議「諦めずに活動を続けたい」 ソウル市区議チャ・へヨン氏が語る政界での挑戦

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チャ氏の選挙区は、若者の街として知られる弘大(ホンデ)エリアに近い。ここは仁川国際空港から延びる空港鉄道のソウル市側で最初の駅ということもあり、ホテルや民宿も密集している。つまり外国人観光客の宿泊が多い所でもある。海外の開放的な文化が流れ込むエリアとも言えるが、その一方で価値観の違いによる衝突も少なくない。

「自分の政治活動はLGBTQだけのためではなく、すべての市民に向けられたものだ」とチャ議員は言う(写真・チャ・ヘヨン氏提供)

チャ氏は「私の選挙区にはLGBTQのクラブやフェミニズム専門書店があるが、店の看板が壊されたり、暴言を吐かれるなどヘイトクライムが発生している。彼らのような小規模事業者が差別やヘイトの標的にならず、引き続きクィア・フレンドリーな空間を維持できるよう条例制定の準備を進めている」と話す。

韓国初のLGBTQ議員として、チャ・へヨン氏が強調するのは、自身の政治活動は決してLGBTQだけのためではないということだ。「私はLGBTQが抱える問題を提議することもあるが、そればかりを話しているわけではない。私はLGBTQだけでなく児童や青少年、壮年、高齢者、フリーター、障害者、そしてまだ社会に認識されていないマイノリティも含め誰もが差別されるべきでないと考える。私はすべての市民の声を代弁するために政治の世界に身を投じたのだ」。

「諦めないでいたい」

自身もLGBTQの一員であるチャ・へヨン氏には、今後も多くの挑戦と困難が待っているだろう。「共に民主党」は確かに革新派ではあるが、LGBTQを考えるときには、他の保守派より「比較的寛容」であるに過ぎない。党内にLGBTQ議員はいても、党中央や国会で過半数を占める議員連盟は、支持者のうち年配層とキリスト教会からの反発を恐れてLGBTQの権利問題を重要な問題として扱おうとはしないのだ。

2022年3月の大統領選に敗北し与党から野党に転落した「共に民主党」は、2022年6月の統一地方選挙でも惨敗した。各地の市長や道知事が保守派に置き換わっただけでなく、絶対的優勢と言われていた首都圏の首長と議会議員も保守派が占めた。今後、末端からLGBTQのために声を上げるには、多くの障害や衝突が予想される。

「共に民主党」政権時代、ソウル市では毎年夏に市役所前広場でクィア・パレードが行われていた。だが政権と市長が交代した今、パレードのための広場の利用を主催者側が申請したものの、申請から2カ月経ってようやく許可された。条例によれば、申請から48時間以内に回答することが原則だ。自身の選挙区でもソウル市内の他の場所でも、党内外でも、チャ・へヨン氏は厳しい現実に直面している。

今まで多くの人がチャ氏にこんな質問をしている。「チャ氏は平等問題を提起しているが、党内で取り上げられなかった場合、離党するのか」と。チャ氏は「ピョン・ヒス下士のおかげで今の私がある。ならば私の役割は、理念が近い人たちと一緒に、より大きな声を出していくことではないだろうか。私はずっと『共に民主党』で活動する」と答える。

取材の最後、チャ氏は苦笑いしながらこう言った。「何かをやり遂げたいというより、諦めないでいたい」。

(台湾のウェブニュースメディア『轉角國際』2022年6月2日から翻訳転載)

(翻訳:沢井 メグ)

楊虔豪 台湾人ジャーナリスト
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