韓国初のLGBTQ区議「諦めずに活動を続けたい」 ソウル市区議チャ・へヨン氏が語る政界での挑戦

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そのとき、チャ氏がとった行動は何も言わずに通り過ぎるということだった。「その場で言い返すより、1つの意見として受け入れたほうがことを収めることができるものではないですか。このようなヤジはクィア・パレードのときや反同性愛勢力から受けたことはありますが、選挙活動の場でも受けると複雑な気持ちになります。彼らは私がどんな人物かもよく知らないまま、無条件に反対しているのですから。そのため、私は今後どうすべきかとても悩んでしまいました」。

保守的な空気の韓国社会、その選挙戦をLGBTQ当事者であるチャ氏は戦略的沈黙をもって戦うことにした。自身を幸運だったというチャ氏。というのも、選挙戦で受けた批判は軽微なものだったと捉えているからだ。だが、今後の風当たりは厳しいものになると考えているという。とくに、メディアを通じて再カミングアウトすれば、より厳しい道が待っているに違いないとチャ氏は話す。「反同性愛勢力からの攻撃は選挙戦だけではないだろう。今後の政治活動でも必ず起こるはず」。心配事は多いが、チャ氏は流れに任せることで立ちはだかるであろう障壁と対峙していく。

今後セクシュアリティを理由とする批判に遭ったらどう向き合うのか。チャ氏は「相手にこう問いかけたい。私がLGBTQなら、あなたと何が違うのか? 私のセクシュアリティを知っているのなら、私にそれを聞く目的は何か。セクシュアリティが私を別の人間に変えるのか。私が過去に行った活動の中で、セクシュアリティのために結果が変わってしまったことはあるか」。

チャ氏は選挙戦で、自身のセクシュアリティを否定もしなかったが、意図的にアピールすることもしなかった。これには別の理由もあった。まずLGBTQ当事者であることを選挙宣伝に使われたくなかったこと、そして有権者に「LGBTQとそうでない人は何も変わらない」ことを示したかった。そうすることで、1人の政治家としてキャリアを積みたいと考えたからだ。無事に区議に当選した今、チャ氏はLGBTQを含むすべての人が安心して生活できる社会づくりを進めようとしている。

独居者と弱者の権利を守りたい

チャ氏は当選後、「私はすべての都会における単身世帯の生活を守る条例を作りたい。条例で単身世帯の労働権や居住権を確立させるためだ。これはLGBTQに限ったことではなくすべての人の権利を守りたいゆえだ。誰もが差別されない社会を願っている」。

チャ氏がこう主張するのも、韓国の伝統的な価値観では「家」を非常に重視するが、その家のあり方に現在、変化が起きているためだ。経済が疲弊し、子供を持つことの経済的負担の重さから、若者が結婚や子供を産むことに関心を持たなくなってきた。その結果、深刻な出生率の低下と高齢化問題が起き、結果、1人暮らしの高齢者が増加しているのが現状だ。

ソウル市だけでも単身世帯は全世帯数の30%以上を占め、その比率は他の人数の世帯を上回る。しかし政策上の支援は十分でなく、若者も高齢者も単身世帯であることを理由に不当な扱いを受けたり、生活が維持できなくなるというケースが増加し続けている。しかも、単身世帯は孤独や絶望に陥りやすく、人とのつながりをつくりにくい。これは、過去に市民団体で活動し、独居者が安心できる場を作ってきたチャ氏にとって、今後取り組んでいきたい課題だ。

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