ネット時代の「編集者不要論」は本当なのか 「センセー!ゲンコー!」だけの仕事じゃない

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ポイントは、その本人が編集をどんな仕事と考えているかにある、と思っている。最近は「整理して流し込む」ことが仕事である……と思う人が増えたのか、企画まで一緒に考え、時にはそこをサポートしてくれる、というタイプの編集者は減ってきている。が、大手出版社を中心に、多くの実績を持つ編集者は、いいものを作るための環境作りに腐心する人が多い。

逆に言えば、どこまで編集者と協調関係を作れるかが、著者の力量のひとつだ、と私は思っている。それができないと、どんどん自分がやらねばならない仕事が増えていき、いいものが作りにくくなっていくからだ。

紙だけの時代よりも重要になった「ノウハウ蓄積」

原稿を受け取って成形することだけが編集者の仕事ならば、出版社はあんなに高いマージンを取るべきではないし、原稿料ももっと上がるべきだ。しかし、「どうすればよくなるか」「そのためにどこまで作業するか」という部分で編集者が共に判断を下すことで、一人ではできない価値が生まれてくると、そこには「共同制作者としての利益配分」が出てくる。

出版社不要論・編集者不要論に違和感があるのは、そういう機能を無視しているからである。人は一人でなんでもできるわけではない。産業的に「いいものを量産する」には分業制が欠かせない。そのために、著者と編集者は別れているのだ。逆にいえば、編集者がなにもしてくれず、結局自分への負担が大きかったのならば、より高いギャランティを請求してもいい、と私は思う。

編集者という「仕事仲間」とのパートナーシップを築くことは、この仕事の最大のノウハウといっていい。そこで躓いた人々は多い。私もすべての編集者といい関係が築けた、とは思っていない。

パートナーシップを築く上で、なにを期待してよくて、なにを自らやらねばならないのか。紙だけの時代よりも、今はテキストの量が劇的に増えた。だからこそ、そうした「いい関係を築いていいテキストを作っていく」ノウハウを蓄積しなければいけないのだろう、と思う。自分がやっていることを人に説明できる自信はないが、「原稿の書き方」を教わる時には、そうした話も必要なんではないだろうか。

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西田 宗千佳 フリージャーナリスト

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にしだ むねちか / Munechika Nishida

得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、『アエラ』『週刊朝日』『週刊現代』『週刊東洋経済』『プレジデント』朝日新聞デジタル、AV WatchASCIIi.jpなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。著書に『ソニーとアップル』(朝日新聞出版)、『漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち』(講談社)、『スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場』(アスキー新書)、『形なきモノを売る時代 タブレット・スマートフォンが変える勝ち組、負け組 』『電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』(すべてエンターブレイン)、『リアルタイムレポート・デジタル教科書のゆくえ』(TAC出版)、『知らないとヤバイ! クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?』(共著、徳間書店)、『災害時 ケータイ&ネット活用BOOK 「つながらない!」とき、どうするか?』(共著、朝日新聞出版)などがある。

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