「孤独のグルメ」の作者は、"怪物"だった! 日本人が知らない、谷口ジローの真価

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『歩くひと』を詩的・文学的な作品と位置づけるなら『柳生秘帖』は完全なるエンターテインメントだ。壮絶なバイオレンス(殺陣)が、谷口氏の圧倒的な筆力とスピード感あふれる構成で描かれており、そのまま連続ドラマの脚本に使うこともできそうな娯楽大作だ。

フランスの同業者が「怪物」と呼ぶワケ

『歩くひと』と『柳生秘帖』、この2作品の内容における隔たりは、谷口氏のクリエイションに見られる驚くべき「幅の広さ」を示している。「飽きっぽさ」とはつまり、未知のモチーフを求め続ける好奇心と向上心に他ならない。

フランスの同業者たちが谷口氏を「怪物」と呼ぶのは、氏の人間離れした画力と、貪欲に新しい題材に挑み、しかもすべてを一流以上の作品にしてしまう信じ難い創造力に敬意を表してのことなのだ。

2014年にフランスで発売されたルーヴル美術館を舞台にした作品。全編がカラーだ

2月20日発売の『千年の翼、百年の夢』(小学館)はパリのルーヴル美術館との共同企画。いわば"逆輸入"された作品で、もともとは昨年、フランスで出版されたものの翻訳版だ。

ルーヴルのバックヤードに秘されてきた謎が明らかになっていく、というストーリーだ。ルーヴル美術館の専門家が作品の背景などについて情報を提供し、谷口氏がそれをフィクションも交えたストーリーとして描き出した。

次回作としては、ラフカディオ・ハーンをモデルにした作品を構想中。現在、雑誌連載に向けて書き溜めているところだ。カラーページについてはアシスタントに背景画や下塗りを任せるものの、仕上げはすべて自身が行う。そのため1ページのカラーページを描くのに丸2日は掛かるという。

「年齢的に、毎週毎週の締め切りに追われながら連載をすることはできないので書き溜めてからスタートしたい。いつスタートするかもまだ決まっていない」

マンションの一室にあるアトリエには、ラフカディオ・ハーンをはじめとする明治期に関するさまざまな文献が、所狭しと置かれていた。準備は着々と進んでいるようだ。

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