猛威振るう熱波で露呈した欧州「脱炭素」の大困難 原子力と天然ガスを「持続可能」と位置づけ

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昨年11月、イギリス・グラスゴーで開催された第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)でまとめられたグラスゴー合意の最重要事項は、異常気象など気候変動による悪影響を最小限に抑えるため産業革命前からの気温上昇幅を1.5度に抑える努力目標で合意したことだった。2015年のパリ協定の2度をさらに抑える目標を設定し、その具体的な達成に賛同する国や企業が協調して取り組むとしている。

ただ、このグラスゴー合意の時点ではロシアのウクライナ侵攻は想定されていなかった。その後の対ロシア経済制裁、エネルギーのロシア依存脱却が加わり、事態は大きく変わった。

ウクライナ危機が長期化し、エネルギー問題が表面化する中、5月にベルリンで開かれた主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境担当閣僚会合では「気候・環境安全保障とエネルギー・国家安全保障は同義だ」との認識が確認された。今や脱炭素を中心とした環境安全保障は、エネルギーの安全保障と一体となって取り組むべき課題とされている。

ドイツでは原発稼働延長をめぐって激しい議論

その中でも注目を集めるのが、天然ガス輸入量の50%以上をロシアに依存してきたドイツだ。

ショルツ首相は7月22日、ロシアからの天然ガス輸送量減少によって経営難に直面するエネルギー大手ユニパーへの支援を表明した。

その3日後、ロシア国営天然ガス大手のガスプロムは、パイプライン「ノルドストリーム1」によるドイツへのガス供給量を27日朝から容量の20%まで減らすと発表した。ガスタービンの整備を理由に挙げたが、ロシアへの経済制裁を科す欧州への揺さぶりとみられている。

そうした事態もあって、ドイツでは連日、今年末までに完全停止する予定だった原子力発電の稼働延長が激しく議論されている。政府与党内で連立を組む自由民主党(FDP)が「非常事態に現実的対応が必要」と稼働延長を主張しているのに対して、連立政権内で原発ゼロの急先鋒、緑の党は、「延長は絶対ありえない」と強く抵抗している。

次ページ有力なのは石炭火力発電の拡大だが…
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