猛威振るう熱波で露呈した欧州「脱炭素」の大困難 原子力と天然ガスを「持続可能」と位置づけ

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アメリカ金融大手ゴールドマン・サックスの最新の分析では、EUがエネルギーインフラを転換するためには、2050年までに累計10兆ユーロの投資が必要であるという。これは年換算では約3500億ユーロとなり、2030年にはGDPの2%以上に相当する額に達するという。

ウクライナ危機によるエネルギー価格高騰がもたらすインフレは、クリーン・エネルギー転換に必要なコストに深刻な影響を与えそうだ。その意味では原発と天然ガス火力発電への投資呼び込みは大きな意味を持つ。

フランスのマクロン大統領は、国内で改良型の欧州加圧水型炉(EPR2)を新たに6基建設するほか、さらに8基の建設に向けて調査を開始すると発表した。

原発依存度7割のフランス政府は今月、原発開発を政府主導で行うため、フランス電力(EDF)の完全再国有化の方針を表明。フランスはドイツやイタリアに比べ、ロシア産天然ガス輸入への依存度が17%と低いため、原発と代替エネルギーでガス減少分は補えるという考えだ。

EU加盟国の足並みがそろわないワケ

リパワーEUの柱の1つである「エネルギー供給の多角化」については、液化天然ガス(LNG)をアメリカから輸入しているほか、カタールからのLNG輸入で交渉中だ。

また欧州委員会は7月18日、カスピ海に面した天然ガス油田を持つアゼルバイジャンと天然ガス供給量の拡大で合意した。EUは現在、アゼルバイジャンからトルコを通り、イタリアに至る南ガス回廊のパイプラインから年間80億立方メートル以上の天然ガスを輸入している。今回の合意は2027年までに、輸入量を現在の2倍以上にするというものだ。

ただし、EU加盟国間でエネルギー事情が異なることから、足並みの乱れは顕著だ。そこには、域外から輸入したエネルギーだけでなく、域内で生産されたエネルギー源を加盟各国で振り分けるシステムが存在しないという課題もある。

欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は「現時点でEUはトータルなエネルギー分配政策を決める権限は与えられていない」と述べているが、彼女が指導力を発揮してエネルギー再分配の議論を深めているわけでもない。

足元の猛暑だけでなく、今年の冬を越えるため、EUとしては徹底した節電を呼び掛けているが、それだけで深刻なエネルギー不足解消と脱炭素の加速を期待することはできないのが現実だ。欧州の抱えた悩みは深い。

安部 雅延 国際ジャーナリスト(フランス在住)

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あべ まさのぶ / Masanobu Abe

パリを拠点にする国際ジャーナリスト。取材国は30か国を超える。日本で編集者、記者を経て渡仏。創立時の仏レンヌ大学大学院日仏経営センター顧問・講師。レンヌ国際ビジネススクールの講師を長年務め、異文化理解を講じる。日産、NECなど日系200社以上でグローバル人材育成を担当。

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