FOMC後のアメリカに横たわる3つの大きなリスク 最悪のスタグフレーションシナリオも想定せよ
一方でこうした動きは、もちろん消費者物価を押し下げる効果もある。景気が一段と落ち込むことと引き換えに、インフレが思った以上に早く沈静化に向かっても不思議ではない。インフレ圧力が明確に後退すれば、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が再び金融緩和に転じるとの期待が浮上してくることも考えられる。万一、住宅市場が大きく崩れれば、経済全体に対する痛みも大きくなるが、金融危機などに発展しない限り、立ち直りも早くなるかもしれない。
原油価格が再度急騰すれば事態はさらに深刻に
企業や住宅の在庫水準のリスクをとりあげたが、実は3つ目として着目した戦略備蓄原油の在庫水準がもっとも深刻かもしれない。アメリカのバイデン政権は、国際エネルギー機関(IEA)に加盟する他国を巻き込みながら備蓄原油を取り崩してきた。これが今後、インフレ沈静化の期待を打ち砕くばかりか、事態をさらに深刻化させてしまうシナリオを認識しておくべきだ。
現在、アメリカでは日量100万バレルもの大量の原油が民間市場に流れ込んできている。実際、足元の需給はこれによってかなり緩和されていると思われる。だが、残念ながら指標となるWTI原油の価格は、ようやく1バレル=100ドル台を割り込んだ程度でなお高価格を維持しており、価格押し下げ効果はかなり限定的だ。今回の備蓄放出は10月までの予定だが、その後は一体どうなるのだろうか。
もし今のペースで備蓄放出が進められるなら、アメリカの戦略備蓄の量は10月には4億バレルを下回る。これはなんと、1984年以来の低い水準であり、エネルギー安全保障上の点からも問題が大きいと指摘されている。
戦略備蓄の放出分が止まれば、本格的な暖房需要期の到来に向けて、市中の原油在庫は再び取り崩し傾向が強まり、それだけで相場の新たな押し上げ要因となる。しかも、ここまで戦略備蓄が減ると、今後もし供給面で何らかの大きな問題が生じた場合、備蓄放出による対処がいよいよ難しくなる。
一方、過去10年に渡る投資不足の影響で、OPEC(石油輸出国機構)などの産油国の生産余力も極端に細っている。また、サウジアラビアなど産油国の油田や石油施設に対する攻撃や、産油国そのものの政情不安、さらには大型ハリケーンのメキシコ湾岸上の油田直撃など、多くのリスクが常に横たわっている。もしこうした突発的な供給不安が起きた場合、今はそれに対処する手段がほとんどなくなっているというのが現状だ。
11月8日の中間選挙を控え、ガソリン価格やインフレの抑制に躍起になっているバイデン政権は、今のところは原油備蓄の取り崩しは既定路線であり、聞く耳など持たないだろう。
だが、中間選挙後は逆にこうした問題に対する批判が大きくなり、逆に備蓄の再積み増しを迫られることもありうる。これらはすべて原油相場にとって大きな買い材料だ。
もしいったん将来的な供給不安が高まれば、WTI原油価格が1バレル=147ドルの史上最高値を上抜けてさらに急騰することも、十分にありうる。その場合は「景気が落ち込むことでインフレが鎮静化する」というシナリオも完全に消えるだけでなく、アメリカを中心に世界が本格的なスタグフレーション(不況期の物価高)に陥るリスクが台頭することになりそうだ。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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