「トランプ復権」ウクライナ戦争で露呈した悪夢 懸念すべき米中ロ「専制トリオ」時代の到来

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トランプは虚偽の言説で大衆を扇動し、選挙の公正な手続きを妨害してきた。自分と支持者の利益のためなら民主主義を損ねることもいとわない人物である。彼が2017年の大統領就任後、それまでの政権の政策をくつがえしてきたことを忘れてはならない。アメリカが主導してきたはずのパリ協定や環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱したのはその典型的な例である。NATOなどの同盟への疑義を唱え、その結束を弱めてしまったことも記憶に新しい。自国の情報機関よりプーチンの話を信じ、ウクライナ侵略直前、プーチンを「天才的」とほめあげた人物がトランプなのである。

専制トリオの時代?

民主主義のリーダーであるべきアメリカに、反民主主義的で専制思考の指導者が登場する可能性があるということだ。米中ロ3国がすべて専制的な指導者を擁する「専制トリオ」時代の到来は民主主義陣営にとっては最悪と言うべきだろう。

中ロに対抗すべきアメリカには民主的勢力と保守的勢力との対立という構図が続いてきたが、保守的勢力がホワイトハウス、議会、最高裁の3つを押さえることになると、専制的指導者がより力を振るいやすくなる。

ウクライナ侵略が象徴する専制国家の誤算は、半面で民主国家の優れた点を明らかにしたのではないか。それは、政策形成において各界の総合力を結集することができ、同時に、チェック・アンド・バランスの機能を持つことで、批判を受け止めながら柔軟に軌道修正を行えることである。

ただし、そのシステムが有効に機能するには各界の不断の努力が必要であり、何より、トップリーダーが民主主義の意味を理解していなければならない。いくら優れたシステムでも、運営するのは人間である。人材登用にあたり能力より、自分への忠誠を求める大統領の再登場は、民主国家の優れた点を自ら損ねる愚を犯すことになる。

筆者は拙著『アメリカの政治任用制度』のなかで、総合力結集のシステムがアメリカの強みであり、その根幹に政治任用制度があることを説いてきた。トランプ政権がこの政治任用制度の利点を生かせないどころか、ないがしろにしてきたことも明らかにしたつもりである。

米中ロの3国を見る限り、アメリカこそ近い将来、不安定化する懸念があるだろう。専制国家に比べて、政策形成上の有利なシステムを持ちながら、自らそれを崩すことで専制国家を利する危険もある。日本にとっては、何より、アメリカの専制化を防ぐことが重要だ。同時に、この国が持つ総力結集のシステムを今後、自国の統治に生かすことが求められる。

小池 洋次 関西学院大学フェロー

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こいけ ひろつぐ / Hirotusgu Koike

1950年和歌山県生まれ。1974年横浜国立大学経済学部を卒業後、日本経済新聞社に入社。シンガポール支局長、ワシントン支局長、国際部長、日経ヨーロッパ社長、論説副委員長等を経て、関西学院大学総合政策学部教授。日経、関学大在職中、総合研究開発機構(NIRA)理事、世界経済フォーラム・メディア・リーダー、米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際大学院(SAIS)客員研究員等を兼務。現在、関西学院大学フェロー、グローバル・ポリシー研究センター代表。主な著書に、『アジア太平洋新論』(日本経済新聞社)、『政策形成の日米比較』(中公新書)、『アメリカの政治任用制度』(東洋経済新報社)等。

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