「トランプ復権」ウクライナ戦争で露呈した悪夢 懸念すべき米中ロ「専制トリオ」時代の到来

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外交面での誤算とは、判断ミスによる失策を意味する。その象徴が、北大西洋条約機構(NATO)の拡大を阻止しようと侵略戦争を起こした結果、かえって拡大につながる動きを強めてしまったことである。中立の立場を取り続けてきたスウェーデンとフィンランドがその立場を変え、NATO加盟を決断し、メンバー諸国もその方向で動き出している。欧州連合(EU)がウクライナを加盟候補国として認めたことも、EUの結束を疑ってきたロシアには誤算であった。

実質的な在位が20年余り、経験豊富で欧米からもその統治能力を評価された指導者がなぜ、このような誤算を繰り返したのか。ウクライナ侵略を巡る情報は、軍事情報をはじめ限定的であり、当事者や関連のメディアからの情報にはバイアスがかかっている。情報をどう流すかも戦争の一環とされる時代であれば、なおさら情報を吟味しなければならない。この問いに対する答えを見つけるには、数年単位の調査や研究が必要だろう。あえて現段階で指摘すべきは以下の3点である。

指導者の過信と妄想

第1に、指導者プーチンの自身と自国への過信である。ロシア連邦チェチェン共和国との紛争やシリア内戦で対立する勢力を軍事的に押さえ込み、ウクライナ領のクリミアを併合した「成功体験」がそうさせるのであろう。政権の長期化により、おごりが生じるのは民主国家でも同様だが、専制国家の場合、問題はより深刻になってくる。成功してきたとの判断がある限り、指導者を止められるものは何もない。過信は時として妄想を生み出すことになる。

第2に、この20年間以上の実質的治世を通じ、イエスマンで側近を固めるなどして、権力維持のための体制を作り上げ、その過程で批判者を排除してきたことである。結果として側近から入る情報は耳触りのよいものばかりで、国家や指導者にとってマイナスになる情報がほとんど入らなくなったのではないか。侵略開始直前の安全保障会議で、プーチンから何メートルも離れたところに関係組織のトップがかしこまっている異様な光景は国内外に報じられた。もはや国内では閣僚や軍のトップだけでなく、かつての仲間であっても逆らうことは不可能であることを印象づけたのである。

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