「82歳の講師」が教壇に立つ深刻すぎる教員不足 教員の自己犠牲で成り立つ公立学校は崩壊寸前

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公立学校を支えてきた教員に限界がきている。(デザイン:熊谷直美、杉山未記、伊藤佳奈 写真:Getty Images)

「あのような経験は初めて。同僚の先生たちは『あなたが悪いわけじゃないんだから、気にしないで、お産に集中して』とやさしく言ってくれたけれど、私が産休に入って以降、同僚たちは授業のコマ数もテスト採点の量も大幅に増え、本当に大変そうだった。申し訳ない……」

熊本県内の公立中学校で社会科を教える30代女性の教員はそう話し、同僚たちの苦労をしのんだ。女性が妊娠したのは2020年の春。すぐに学校に伝え、10月から産休に入ることを告げた。

地元の教育委員会が代わりとなる非正規教員を探し始めたが、産休に入る1カ月前の9月になっても代わりは来なかった。「このまま産休に入っていいんだろうかと心配しているうちに、10月が来てしまった」(女性)。

図書室で2クラス同時に授業

女性が産休で抜けた後、担当授業はほかの社会科教員で分担することになったが、それだけではカバーできず、教頭が現場に戻ることになった。それも、2クラス同時に授業をしようと図書室に80人を集めた。「図書室に80人も入ったら先生の声は聞こえないし、質問もしにくい。生徒がかわいそうだった」と女性は述懐する。

文部科学省が今年1月に公表した初の「教師不足」調査で、熊本県の不足率は小学校でワースト2位、中学校ではワースト1位だった。

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原因について熊本県教育庁学校人事課は「非正規教員の大幅減少」と「特別支援学級の増加」の2点を挙げる。「団塊の世代の大量退職に伴い、大量の正規採用を実施してきた。それまで非正規だった人たちが正規採用されたことで非正規教員の数が減った。その結果、育休や産休で出た欠員を埋めきれなくなってしまった」と言う。

また8人の子どもに1人の教員を充てる特別支援学級の数も増加している。特別支援学級の増加によって必要とされる教員の数が増え、補充ができずに「教師不足」が起きてしまったのだ。

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