「82歳の講師」が教壇に立つ深刻すぎる教員不足 教員の自己犠牲で成り立つ公立学校は崩壊寸前
熊本のような状況は全国各地で生じている。東京都では今年、小学校約50校で教員配置が定数に満たない事態が発生した。
都内の小学校に非常勤講師として勤務する女性は今年で82歳。東洋経済が取材をしていると、女性の携帯電話が鳴った。相手は教頭で「また欠員が出てしまった。明日の午前中、授業に入ってもらえないだろうか」という相談だ。女性は二つ返事で応諾した。欠員の代替で入るのは今年3度目だという。
給与は週7時間の担当授業分を支払ってもらっているが、代替した授業時間分は無給だ。通常は毎日朝から夕方まで勤務し、給食の時間は特別支援学級の配膳も手伝う。「児童たちはひ孫に当たる年齢。子どもも授業も好き」だと笑顔で語る女性は、もし自分が代替を断れば学校運営がままならなくなることを、よく知っている。
公立学校は今、個人の善意によって、ぎりぎり持ちこたえている。
文科省の調査では全国で約2000人の教員不足が報告された。だが、この不足数には「最低でも」という注記が必要だ。調査が行われた5月は年度当初で、それから産休や病休で休職者は増えていく。欠員が補充されなければ残った教員が負担を補うしかない。
休職者増でドミノ倒し
千葉県の公立中学校に勤務する男性(30代)は、急きょ担任を任されたことがある。学年主任を担うなど「頼りにしていた先輩」が精神を患い、夏休み明けから学校に来られなくなってしまったからだ。
補充教員は見つからず、休職した先輩教員が受け持っていた担任や授業、学年主任の業務をほかの教員で分担することになった。男性は、もともと負担が重かった生徒指導の業務に学年主任の業務が上乗せされ、疲労困憊する。「休職者が多く、年度当初に教員定数が満たされていても、すぐに足りなくなる」と男性は言う。
教員の精神疾患による病気休職者数は1990年からの20年間で約5倍に増え、高止まりが続く。休職者が増えると残った教員の業務負担が増え、心身ともに疲弊した教員の休職がさらに増えるというドミノ倒しが起きかねない。