(第55回)専門家に場を提供し国を栄えさせよう

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 最近では、シリコンバレーで活躍した人材が本国企業とのビジネスの橋渡しをしたり、帰国して起業することも多い。中国は、海外在住の中国人技術者や研究者を、政府や地方政府が呼びかけて本国に戻している。この中にはシリコンバレーからの帰還者が多い。インドや中国が一方的に人材を提供するのではなく、相互依存関係が出来上がりつつあるわけだ。

「場」の魅力があれば専門家は集まる

イギリスの金融業における「ウィンブルドン現象」も同じである。先端的なサービス産業では、ビジネスと快適な生活のためのインフラストラクチャーを持つ地域が「場」を提供すれば、有能な人材が集まってくるのである。それらの人々が新しい産業を作り上げ、発展させる。そして、その周辺で雇用を派生的に生んで経済を活性化させる。

外国人の活用と聞くと、日本人はどうしても「外人に職を奪われる」という反応になってしまう。そうした考えから脱して、「専門家の活動に場を与える」という考えに転換することが必要だ。

そのために必要なものは「人々を引き付ける地域の魅力」である。シリコンバレーの場合には、カリフォルニアの自由なビジネス環境である。19世紀のゴールドラッシュ以来、カリフォルニアの自由な空気が世界中の人々を引き付けてきた。そしてIT産業に関していえば、スタンフォード大学という中核が存在した。ロンドンの場合には、シティを中心とした金融ビジネス展開のためのビジネス・インフラストラクチャーである。

本来であれば、東京がそうした場になってもよいはずである。生活環境の快適さでいえば、世界の大都市に引けを取らないからだ。また、日本のエレクトロニクスメーカーや金融機関は、1980年代のような輝きは失ったとはいえ、いまだに世界の人材を引き付ける魅力を持っている。その魅力が消滅しないうちに専門家を集めることが必要だ。

なお、企業が外国人の専門家を雇うだけでなく、研究者の国際共同研究も必要だ。中国の大学とアメリカの大学の共同研究はかなり進んでいる。アメリカにいた中国人が中国に帰り、アメリカの大学との接点になる。研究者でつながりが出来れば学生レベルの交流も進む。私の友人の物理の専門家は、日本の研究者はアメリカの大学との間でこのような関係を築くのが苦手で、日本が取り残されていると言っている。

清華大学では、外国の大学と企業の共同で、大学内部に連合研究センターを作っている。マイクロソフト、オラクル、IBMなど200社を超える企業が参加し、共同研究を行っている。


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2011年3月12日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。photo:me CC BY-SA
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