人権弾圧のミャンマーにJICA専門家派遣の是非 内部文書で判明、国軍の宣伝に悪用の恐れも
他方、JICAミャンマー事務所が作成した「ミャンマー国内の安全対策と健康管理について」と題した2022年5月付の文書は、「外出に当たっては、特に爆発、銃撃事案等に巻き込まれるリスクを十分意識したうえで、身の回りの安全に十分注意して行動してください」と注意を促している。まさに安全が担保されているとは言いがたい状況にある。報道によれば、7月12日、専門家の赴任地であるヤンゴン市内では7件の爆発事件が発生。これまでに2人の死亡が確認されている。
では、JICAの要請を専門家が拒否した場合、どうなるのか。
JICAが6月に配付した文書では、「事情により再渡航を希望しない専門家については、任期短縮・要員交代や派遣形態の変更により対応する」と記されている。「専門家はJICAとの間で業務委託契約を締結しており、任期は2年程度。そのため、任期短縮は早晩、失職につながりかねない」と前出の関係者は危惧する。そのうえで「専門家の多くは家族を抱え、断りにくい状況にある」(同関係者)という。
悪化するミャンマーの人権状況
ミャンマーの人権状況は悪化している。ミャンマーの人権問題を担当する国連人権理事会のトーマス・アンドリュース特使は6月29日付の声明文で、「国軍による暴力はさらにひどくなっている。空爆で村を焼き払い、子どもまで殺害している。これは戦争犯罪に相当する」と非難している。
クーデターを起こした国軍は国家統治評議会を組織し、ミン・アウン・フライン国軍総司令官自らが暫定首相に就任。だが、日本政府はこのクーデター政権を正式に承認しておらず、クーデターを非難するとともに、新規のODA供与も見合わせている。
その一方で2022年5月、民間の経済協力団体である日本ミャンマー協会の渡邉秀央会長とともに、日本政府の内閣官房内閣審議官がミャンマーを訪問し、クーデター政権の労働相などと会談していた事実がミャンマー国営紙によって報じられている。この件を問題視する日本や海外など110の市民団体は岸田文雄首相宛てに抗議文を送付し、同審議官の訪問の目的や対談相手、対談内容などを明らかにするように求めている。
そうしたさなかにJICAによる専門家のミャンマー派遣再開が明らかになったことで、その活動がクーデター政権に宣伝材料として悪用されるリスクも持ち上がっている。
東洋経済が入手したJICAの内部文書では、「(局長以上の現地関係者との)会合を開催する場合、国営メディア等で報道されないよう留意する」「JICAとカウンターパート(相手方)との共同活動が国軍のプロパガンダに活用される懸念がある」との記述もみられ、JICA自身がこうしたリスクを懸念していることがわかる。
JICAのホームページでは7月14日現在、専門家の派遣について何の情報も掲載されていない。東洋経済の取材に対し、JICA報道課は「安全に活動できるとの判断に基づいて専門家に現地での業務をお願いしている。専門家本人が不安を感じているのであれば、関係部署や現地事務所がいつでも相談に応じる」などと説明。
クーデター政権を利する恐れがあるとの懸念が持たれていることについては、「専門家にはできるだけ目立たないように活動してもらう」(同課)という。ただ、なぜ今、派遣しなければならないのかも含めてJICAの説明内容はあいまいだ。
国民の理解と支持が必要な開発協力には高い透明性が求められている。理由を含め十分な説明なしに人権侵害が横行している国にODAを担う専門家を派遣するやり方に問題はないのか。JICAはこの間のいきさつをきちんと明らかにすべきだ。
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