東武鬼怒川線、「ほぼ毎日走るSL」が秘める可能性 沿線住民が花を植え、列車に手を振ってくれる

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SLに乗ればわかるが、窓の外では地元の人が絶えず手を振ってくれる。東武のSLはほとんど毎日のように走っていて、もはや地元の人にとっては珍しいものではないはずだ。年に数回の特別運行ならまだしも、日常的に走るSLに手を振り続けるということは、それなりに大きな思いの表れといっていい。

「SLに乗務している日光市観光協会のアテンダントのみなさんがパンフレットを作って、『SLが通ったら手を振ってください』と商店街や幼稚園にお願いして回ってくれたんです。最初はSLだけでしたが、だんだん特急や普通列車にも手を振ってくれるようになって。はじめは恥ずかしかったみたいですけどね(笑)」(田沼駅長)

SLをきっかけに生まれた地域との交流。それが、およそ観光客が降りるとは思えないような小さな駅の活性化にもつながった。下今市駅長に就任する以前は日光・鬼怒川エリア営業推進部に所属していたという田沼駅長。その当時、地元の人と一緒になって倉ヶ崎の花畑を整備したり、あじさいを植えたりしたという。

「ただSLが走っています、というだけだと弊社だけの取り組み。でも、地元のいいところも広がっていくのが理想です。鉄道会社が勝手にやっている、ではなくて、地元の人たちといっしょに盛り上げていきたいですね」(田沼駅長)

そしてこれから大きく生まれ変わる可能性を秘めているのが、鬼怒川線のスタート地点、下今市駅だ。SLの機関区のあるターミナルで、駅舎は昭和レトロな雰囲気に包まれる。登録有形文化財に登録されている旧跨線橋にも鬼怒川線の歴史を伝えるパネルを展示するなど、駅の中は楽しめる工夫が満載だ。

いまはまだイマイチ?な駅前

「ただ、駅の外にでるお客さまは少ないんです。日光線と鬼怒川線の分岐点の駅なので、学生さんとかの乗降は多いですし、観光の方も乗り換えではよくご利用いただきます」(田沼駅長)

下今市駅の待合室はご覧の通りレトロ感にあふれている(撮影:鼠入昌史)

しかし、駅の周りを散策する人は少ない。もとは日光街道の宿場町であり、薪を背負ってお勉強でおなじみの二宮尊徳終焉の地という歴史的なエピソードもある。東武の下今市駅とJR今市駅を結ぶ道路は拡張工事のまっただなか。いまはまだ、とくに何があるというほどのことはない下今市駅の周辺だが、これから大きく変わっていく、そういうポテンシャルを秘めている。

2017年にデビューしたSL大樹で一躍注目を集めた東武鬼怒川線。そしてSLの登場をきっかけに、地域との交流が加速して活性化への道筋が見えつつある。SLの導入などはそう簡単にできることではないけれど、地域と鉄道会社の関わり方の1つの答えが、東武鬼怒川線にはあるのかもしれない。

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鼠入 昌史 ライター

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そいり まさし / Masashi Soiri

週刊誌・月刊誌などを中心に野球、歴史、鉄道などのジャンルで活躍中。共著に『特急・急行 トレインマーク図鑑』(双葉社)。

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