ただ、今回の最大の目的は鬼怒川温泉駅ではない。鬼怒川温泉駅は、むしろSLを含めて鬼怒川線に乗る際の目的地のようなものだ。問題は、それ以外の駅なのだ。
改めて鬼怒川線の概要をまとめると、区間は下今市―新藤原間で9つの駅がある16.2kmの路線だ。SLのほかには特急「リバティ」なども乗り入れており、新藤原駅ではそのまま会津方面に向かう野岩鉄道と接続している。
野岩鉄道に出向していた経験がある廣長駅長はいう。
「新藤原の駅は野岩鉄道との共同使用駅なんですが、駅業務は野岩鉄道に委託していまして。野岩鉄道が通ったことで、南会津の人たちにとっては首都圏と一直線につながった。おじいちゃんおばあちゃんから、もう100年以上の夢が叶ったという話はよく聞いています。ただ、新藤原の駅の周りは……とくに何があるというわけではないですね。温泉とか紅葉とか、そういうお客さまはもっと先まで乗っていきますし」
つまりは完全なる事業者間の境界という新藤原駅。では、1駅南の鬼怒川公園駅はどうか。そのネーミングからは、なんだか楽しそうな雰囲気があるが……。
実際に訪れてみると、駅の周りにとりたてて人がいるわけでもなく、クルマが待っているわけでもなく、そんなひとけのない一角にぽつんと大きな駅舎。コンクリート造りの武骨な駅舎は、かつてたくさんの団体観光客を扱っていたのだろうという、そんな時代をほのかに想像させる。
「バスで来る場合は、鬼怒川公園あたりも便利なんですけど、電車で来るとどうしても鬼怒川温泉駅で降りて、その近くのホテルに泊まるという感じになってしまうみたいなんですよね」(田沼駅長)
鉄道とバス、ライバルのようでいて、互いに補い合って町に魅力を生み出す関係なのだ。
実は複線区間がある
「で、鬼怒川温泉駅の南、東武ワールドスクウェア駅との間には鬼怒立岩信号場があるんです。ここは昔、実は駅だったことがあります」(廣長駅長)
廣長駅長の案内で、鬼怒立岩信号場が見渡せる踏切まで足を運んだ。信号場とは、すなわち単線の路線でも駅以外の場所で列車が行き違えるようにするための設備。鬼怒川線はほとんどが単線だが、鬼怒立岩信号場―鬼怒川温泉駅の間は複線になっているというわけだ。
鬼怒立岩信号場から少し南に下ると、2017年に開業した鬼怒川線で最も新しい駅、東武ワールドスクウェア駅。真新しくも小ぶりな駅舎を出て国道を渡れば、ミニチュアの世界が広がるワールドスクウェアだ。取材時も、東京方面からやってきたのであろう学生のグループが改札を抜けてワールドスクウェアに向かっていた。
「もともとは小佐越駅がワールドスクウェアの最寄り駅だったんですよね。歩いて800mくらいですから。ワールドスクウェアの駅ができて小佐越駅のご利用が少なくなった、という感じでしょうか。小佐越駅から南は、ほとんど観光というよりは地域の人たちのための駅ですね」(廣長駅長)
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