「日本語ラップはダサい」に学術的に終止符を打つ 日本語ラッパーは言語学的感性に優れた人々だ

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例えば、ライムスターの宇多丸さんは「バースデー [baasudee]」と「待つぜ [matsuze]」で韻を踏んでいる。KICK THE CAN CREWの曲では、英語のIt's not overを日本語っぽく「イツナロウバ」と表現して「静まろうが」で韻を踏んでいた。

あー、英語(っぽい表現)と日本語を合わせることもできるわけね。 [i u a o u a]って母音が合致しているじゃん! すごい! 格好いい〜。そのうち、字余りが気になってきた。宇多丸さん、「はい注目」と「始終を」で韻を踏んでるけど、「注目」の[ku]が字余りだな。どんな字余りが多いんだろう〜、っと。ただ、この時期はまだ所詮は学部生である。たいした分析はできていなかった。

ネット上で盛り上がった日本語ラップをめぐる論争

時は流れ2005年、その頃の私は、アメリカの大学院で学んでいた。そして当時、ネット上でとある論争が勃発した。勃発したと言うよりは、日本語でラップをするという行為が試みられた当初から起こっていた議論ではあったらしいのだが、それを知ったのは後の話だ。

曰く「日本語ラップはダサい」。もっと言うと「日本語はラップに向いていない」。気になる方は「日本語はラップに向いてない」で検索すれば、当時の雰囲気が伝わるだろう。

言語学的な論考だと、こんなのがあった。英語の母音はたくさんあるけど、日本語の母音は5つしかない。しかも、英語は子音で終わる単語がたくさんあるけど、日本語にはそのような単語がない。

つまり、英語の韻では、「母音+子音」の組み合わせが星の数ほど存在するのに、日本語は母音5つだけ。小節末に母音が1つだけ合っていても、それは技巧でもなんでもなく、ただの偶然だ。よって、日本語は韻に向いていない。q.e.d. 証明終了。

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