公共部門の賃上げはさらなる物価上昇を招く 賃上げで高まる1970年代不況の再来可能性

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確かに可処分所得は8〜9%の物価上昇によって大きく目減りしている。ただ、このインフレは主にエネルギーと食料品の価格が急騰したことによるもので、いずれは解消される。物価上昇率を過去二十数年にわたって続いていた低いレベルに落ち着かせたいのなら、公共部門の大幅賃上げこそ最もやってはならないことなのだ(もちろん、生産性が大幅に高まっている場合はこの限りではない)。

さらに現在のような経済環境下では財政にかかる圧力もこれまで以上に厳しいものとなるので、適切な課税水準をめぐる難しい議論は一段と複雑化する。当面はインフレ率、中でも長期の期待インフレ率のコントロールに対応の比重を傾けざるをえないだろう。

インフレに対処する必要な策

インフレに効果的に対処するには、次の3つが必要だ。第1に政府は、中央銀行がインフレ鎮圧に必要な措置を講じられるようにしなくてはならない。第2に政治家は、政府には資金を無尽蔵に引き出せる「打ち出の小づち」があるという印象を広げるのをやめること。政府として問題に積極的に取り組んでいる姿勢を見せたいのであれば、しっかりと考え抜かれた財政規律を示さねばならない。

その模範となるのが、ブラウン元英首相が掲げた有名な「ゴールデンルール」だ。政府の借り入れを投資目的に限定し、経常的支出は税とその他の歳入で賄うよう定めたものだが、その改訂版が今、切実に求められている。

第3に政府は、長期の投資支出にもっと真剣にならなくてはいけない。これは取り残された地域の「レベルアップ」にも関わる問題だ。政策担当者は財界の減税要求も突っぱねるべきだ。法人減税は何十年にもわたって続けられてきたが、それが企業投資の拡大や生産性の向上につながったという確かな証拠はどうやら存在しない。

その一方で政界のリーダーらは、国民、中でも所得の低い労働者に向けて、インフレ鎮圧の過程では物価高による実質賃金の目減りを一定程度受け入れることがなぜ皆の利益になるのか、その理由をしっかりと説明する必要がある。

物価の安定と生産性の向上がなければ、大幅な賃上げや大規模な財政・金融政策は経済的に持続不可能だ。そんな政策は欺瞞以外の何物でもない。

ジム・オニール ゴールドマン・サックス元エコノミスト

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Jim O’Neill

米投資銀行大手ゴールドマン・サックスの資産運用部門会長、英財務省政務次官などを歴任。BRICsの造語を生み出したことでも知られる。

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