高インフレに苦しめられた1970年代の経済状況が戻ってくる──。そんな議論がこのところ多く聞かれる。筆者の住む英国では、5月の消費者物価指数が前年同月比で9.1%の上昇を記録。大規模な鉄道ストライキも大きなニュースとなっている。
だが70年代型経済の再来は本当に間近に迫っているのだろうか。それは賃金交渉と金融・財政政策がどうなるかでおおかた決まる。
カギを握る賃上げ交渉
労働者からの賃上げ要求が強まる中で焦点となっているのが、長期の期待インフレ率だ。米ミシガン大学の期待インフレ率調査は注目度の高い指標だが、6月上旬に発表された5年先の期待インフレ率は5月の3%から3.3%に跳ね上がった。懸念すべき動きであり、中長期ではインフレ沈静化の見通しを示す調査もあると論じる向き(筆者もその一人だ)には厳しいデータとなった。
足元では、期待インフレ率が実際に不安定化する危険は高まっている。そのため米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする各国の中央銀行は難しい局面に立たされている。期待インフレ率が不安定化する流れを定着させるわけにはいかないからだ。そのようなことを許せば、50年前のような暗澹(あんたん)たる経済状況がよみがえる。
今後の経済動向のカギを握っているのが賃上げ交渉だ。賃金と物価がスパイラル的に上昇するリスクが高まっていることを考えると、英政府が主要な鉄道労組の賃上げ要求に厳しい姿勢で臨んでいるのは正しい判断といえる。政府は国民とメディアに強いメッセージを発しなくてはならない。
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